◇医療情報−横隔膜ヘルニア


◎横隔膜ヘルニア

 横隔膜とは、身体の中の胸腔(肺や心臓などが入っている)と腹腔(消化管や脾臓、泌尿生殖器などが入っている)を隔てる膜のことです。筋肉と腱からできていて、焼肉屋さんで食べられる、「ハラミ」や「サガリ」は、牛の横隔膜です。
 横隔膜は、主に呼吸を補助する働きをしています。息を吸う時は、横隔膜が下に下がり、胸腔を広げ、肺がふくらむのを助けます。逆に、息を吐く時は、横隔膜が上に上がり、胸腔を狭くし、肺が縮まるのを助けます。ちなみに、「しゃっくり」とは、横隔膜がケイレンしている状態をさします。
 横隔膜ヘルニアとは、横隔膜が強い衝撃によって破裂し、その傷口から腹腔内の臓器が胸腔内に入り込んだ状態をさします。当然、胸腔内は狭くなるので、呼吸困難となり、消化管も正常な位置にないため、嘔吐、食欲不振などの症状を示します。

【原因】
 横隔膜ヘルニアは、交通事故や高所からの転落などにより、腹部に急激に強い圧力が加わり横隔膜が破裂し、その傷口から肝臓、胃、腸、脾臓などの腹腔内臓器が胸腔内に入り込むことによって発症します。したがって、主に屋外に出て自由に活動している猫に発症します。室内のみで飼われている猫では、ほとんど発症する機会はないですが、高層住宅で飼育されている場合は、ベランダや窓からの転落事故によって発症することがあります。
 まれに先天性横隔膜ヘルニアが認められますが、この場合、横隔膜の一部が生まれながらにして欠損していて、しばしば心奇形、胸骨の奇形、臍ヘルニア(でべそ)などの異常を伴っている場合が多いです。

【症状】
 受傷直後で、ヘルニア孔(傷口)も大きく、多量の腹腔内臓器が脱出した場合は、努力性の呼吸(肺が圧迫されているので、頑張って吸おうとしないと吸えない)、チアノーゼ(心臓が圧迫されているので、血液循環が乱れ、舌の色が紫色になったりする)、起立困難、体温低下、さらにショック状態などの重い症状が観られます。胃のヘルニアがある場合は嘔吐が起こりやすく、脱出臓器(特に肝臓)にうっ血が生じると胸水の貯留も観られます。
 ヘルニア孔が小さく、腹腔内臓器の脱出が軽度の場合は、呼吸数の増加や食欲不振などの軽い症状しか観られないこともあります。また、受傷直後は重度の症状があった猫でも、日数の経過と共に症状が緩和して、その後ほとんど異常が認められなくなり、たまたま別の目的で行った検査で初めて発見される例もあります。
 共通する外見上の特徴は、腹腔内臓器の脱出によって腹部が小さくなって見えることです。また、ヘルニア以外に骨折や裂傷などの外傷を伴っていることが多いです。
 先天性横隔膜ヘルニアでは、症状はゆっくりと出てきて、生後1ヶ月位から浅く速い呼吸が観られ、同腹の兄弟に比べて発育が悪いことが多いです。

【診断】
 X線検査で、胸腔内に入り込んだ腹腔内臓器を確認する必要がありますが、単純撮影で判断できない場合は、消化管造影が必要となります。

【治療】
 基本的には、全て手術によって治療されます。重症例では術中および術後に死亡する可能性も少なくないですが、手術が順調に終了した場合の予後は良好です。



獣医師 斉藤 大志 2002.2.27

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