◇医療情報−門脈シャント


門脈とは、胃、小腸、大腸、脾臓、膵臓からの血液を集めて肝臓に流入する血管で、正常では腸管から栄養素とともに吸収されたアンモニアや細菌の毒素は、この門脈内を通って肝臓に入り無毒化されます。肝臓には、生命の維持に不可欠なさまざまな働きがありますが、そのひとつに有害物質の無毒化という重要な役割があります。

シャントとは、短絡、つまり近道のことで、門脈シャントは、門脈と全身循環にいく血管の間に先天的あるいは後天的に生じた近道の血管で、この血管の異常結合が存在することにより、本来ならば肝臓で無毒化されるべき有害物質が、処理されないまま直接体中をめぐってしまい、さまざまな障害を引き起こします。

門脈シャントは先天性のものがほとんどで、多くの場合1〜2歳齢くらいまでの若齢で発症します。犬種ではミニチュアシュナウザーやヨークシャーテリアなどに多いといわれています。

症状
アンモニアなどの中枢神経有害物質の影響により、軽度から重度までさまざまな程度の神経症状が見られます。その症状としては、無関心、沈うつ、元気消失、嗜眠、旋回運動、凶暴化などへの性格の変化、頭を押し付ける・壁づたいに歩くなどの異常運動、失明、けいれん、昏睡などがあります。その他唾液分泌の亢進は、猫によく見られる症状です。
これらの症状は、肉類などのタンパク質の豊富な食事を摂ったあとに悪化する傾向があります。それは、有害物質であるアンモニアは、食事摂取後、主として腸管内で食事タンパクなどから生成され、本来ならば肝臓で無毒化されてから全身循環し、最終的に腎臓から排泄されるのですが、門脈シャントの存在する動物では、肝臓で処理されずに有害なまま体中をめぐってしまうからなのです。
その他の症状には、消化器症状や泌尿器症状があります。消化器症状としては、間欠的な食欲不振、下痢、嘔吐などが見られ、同腹の健康動物に比べて発育不良と体重減少が目立ちます。泌尿器症状としては、アンモニアが多量に腎臓から排泄されるために尿中に尿酸アンモニウム結石ができやすくなり、この結石の存在により血尿、頻尿、尿道閉塞などが見られることがあります。

診断
病歴や症状などから本症が疑われた場合、血液検査、レントゲン検査、尿検査などを実施します。これらは診断の助けになりますが、確定診断には、超音波検査、レントゲン門脈造影検査や試験開腹によってシャント血管を確認することが必要となります。

治療
中枢神経有害物質であるアンモニアや細菌の毒素の腸管内での産生を抑制するための、低タンパク食の給餌、下剤や抗生物質の投与などの内科療法を行うと症状は安定しますが、解剖学的な異常は存在したままであるため、血液が肝臓に十分に供給されず、肝機能は次第に悪化してきます。したがって、症状が安定したならば、できるだけ早期にシャント血管の閉鎖手術をうけます。ただし、複雑かつ高度な手術なので、大学病院や大病院など専門医への紹介となります。
手術後の経過が順調なものは、予後良好なようです。



獣医師 高橋 亜矢子 2001.10.1

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