◇医療情報−股関節形成不全



「ウチのゴールデン・レトリーバー、腰をプリプリ振りながら歩くんですよー。かわいいでしょ!!」…なんて喜んでいる飼い主様、いらっしゃいませんか?見た目の可愛さとは裏腹に、ワンちゃんは股関節形成不全の痛みで苦しんでいるかもしれません。

股関節形成不全は遺伝性の疾患で、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、セント・バーナード、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、秋田犬などの、大型・超大型犬でよく見られます。性別による差はなく、生後半年〜1才齢頃までに発症する例が多いです。正常な股関節(腰の骨盤とふとももの大腿骨をつなぐ関節)がどうなっているかというと、骨盤側は寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれ、臼のような形をしており、大腿骨の先端の、丸い大腿骨頭がそこにはまり込み、それらがじん帯でつながった構造をしています。股関節形成不全は、股関節の形成が完全でない病気で、寛骨臼の発育不全・変形(臼が浅かったりする)や、大腿骨頭の変形(扁平化など)により、股関節がうまくかみあわず、後ろ足を慢性的に引きずったり、モンロー・ウォークと呼ばれる、歩く際の腰のふらつき、さらには横座り(俗に言う女座り。正しい犬座姿勢、つまり「おすわり」ができない)などが見られます。

【原因】
遺伝や、発育期における栄養素の不均衡やタンパク質とミネラル、特にカルシウムの過剰摂取が、その発生を助長すると考えられています。また、急速に発育・成長する大型・超大型犬に発生が多いことから、発育期の骨と筋肉の発達に不均衡が生じるためとも推測されています。

【症状】
最も一般的な症状は、後ろ足の跛行(ひきずる)ですが、その程度は、股関節のゆるゆる具合と、二次的に起こる関節炎による痛みの程度によって、軽度のものから歩行が困難なものまで様々です。大抵は左右両側の足で見られますが、片側だけの場合もあります。跛行は、生後2ヶ月齢位まではほとんど認められませんが、体重が増加し運動が活発になる生後4ヶ月〜1才齢頃から明らかに出てくる場合が多いです。初期には、少しずつ歩き、運動することを嫌がるようになります。ついで、四肢を突っ張るような姿勢や、片方の足をかばう歩様が見られ、さらに症状が進むと、歩く時に腰が左右にふらつき、後ろ足を外側に回転するように踏み出すようになります。さらに重篤な場合、股関節自体がしっかりと正常な位置におさまっていない状態なので、ちょっとした高さから飛び下りたり、少し腰をぶつけたりしただけで、股関節脱臼(じん帯が切れて、寛骨臼と大腿骨頭がはずれる)を起こしてしまうことがあります。

【診断】
症状と合わせたレントゲン検査で分かります。ただし、大型犬が暴れると、キッチリしたレントゲン検査が困難なため、鎮静をかけて撮影する場合もあります。

【治療】
遺伝によるところが大きいので、この病気を持った子を繁殖に供することをしない、好発犬種を飼育する際は、両親をはじめとして、数代の先祖についての病歴を調査してから子犬を選ぶなどの予防・対策が重要です。欧米では子犬の販売時にこの疾患がないことの証明書を発行したりもしています。
また、たとえ発症したとしても、鎮痛剤や、関節の軟骨形成を正常化する薬などの投与により、対症療法的に維持することができる場合もあります。より重症な例では外科的な手術が必要な場合があります。



獣医師 齊藤 大志  2002.9.10




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