◇医療情報−疥癬(カイセン)

  疥癬というのは皮膚の中に穿孔して寄生するダニによって起こる寄生虫性皮膚炎のことです.その病態はダニの皮膚への穿孔,ダニの分泌する物質による痒み,そしてダニの体外分泌産物に対する過敏反応(アレルギー)によって引き起こされ,その程度は動物の抵抗力とダニに対する過敏反応の程度により異なってきます.
 これらのダニには寄生する動物の好みはあるようですが,それほど絶対的ではないため,他の動物にも寄生することがあります.人にも寄生して皮膚炎を起こすため,人獣共通の寄生虫といえます.

 病因)
 ・犬疥癬…イヌセンコウヒゼンダニ Sarcoptes scabieiによって起こります.
 ・猫疥癬…ネコショウセンコウヒゼンダニ Notoedres catiによって起こります.
 何れのダニも,17-21日のライフサイクルをずっと角質層のトンネル内で過ごします.感染は接 触によって簡単に成立します.少数の寄生によって激烈な痒みを起こすことがあり,病態の発生 には過敏症(いわゆるアレルギー反応)も重要な役割を果たしていると考えられています.
 また,前述したように宿主特異性は絶対的なものではなく,イヌに猫疥癬が,猫に犬疥癬が伝染ることもしばしばあります.
 
 臨床症状)
 始めは発赤斑,丘疹がみられますが,慢性化したものは脱毛や激しいフケの蓄積として現れるで しょう.また,何よりも激烈な痒みを示すことがあり,診察台にのるという緊張を招く状態にお いてすら身体を掻いていることがあります.病変は耳介,顔面,足,胸部腹側(犬疥癬)に出やすいですが,激しい場合は全身に出ます.

 診断)
 まず,臨床症状,他の動物との接触歴,飼い主にも痒みを伴う皮膚炎がでているという事実などにより疥癬を疑い,病変部の皮膚の掻き取り試験により診断を確定します.症状が典型的な場合,この検査で出なくてもダニがいないことにはなりません.繰り返し検査を実施するか,診断的治療が必要な場合もあるでしょう.

 治療)
 ・イベルメクチンという薬剤の皮下注射が非常に有効ですが,コリー,シェルティー,オーストラリアンシェパードおよびその系統の雑種犬には大変強く毒性が出るため使用できません.また,フィラリアの寄生があり,その仔虫のでている状態の犬には使用できませんので必ずフィラリアの検査をしてから使用します.
 ・他の方法として薬剤に浸漬する方法があります.まず,浸漬前に角質溶解性のシャンプーで薬浴し,その後硫黄石灰溶液やアミトラズという薬剤を薄めたものを塗布します.これを一定間隔あけて数回繰り返します.
 ・その他に二次的な膿皮症を治療する必要がある場合は抗生物質の治療を実施します.
 ・ダニは環境中では長期間生存できないので,生活環境の清掃も管理上重要です.また,室内飼育なら,一般的に室内の殺虫に使用されている残留性殺虫剤を飼育環境に使用することも有効です(ただし動物をどこか安全な場所に移してから使用してくださいね).


獣医師 堀 五郎 2001.11.13

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