◇医療情報−毛包虫症

【原因】
ニキビダニ(Demodex tulliculorun。毛包虫、アカラスともいう)というダニの一種が、動物の毛包及び皮脂腺に寄生して発症する皮膚病で、ほとんどの哺乳動物にそれぞれの変種が寄生します。例えば、犬にはD(Demodexの略).canisが、猫にはD.catiが寄生します。(人間もです)ニキビダニは、卵からかえって、幼虫、若虫、成虫へと成長しますが、全生涯を寄生した宿主の皮膚で過ごします。ニキビダニは、通常、健康な動物の皮膚にもごく少数は存在しますが、宿
主の抵抗力が低下すると著しく増加し、毛包虫症が発症すると考えられています。感染は直接接触、特に哺乳時における、母親から子供への感染が主要経路であると考えられています。

【症状】
犬の場合、無症状のまま経過することも多いのですが、多数寄生すると、脱毛したり、皮膚がはがれ落ちたり、あるいは細菌の二次感染を受けて化膿症を起こします。一般に、免疫力の安定しない生後2〜10ヶ月齢の幼犬に発症することが多く、3歳以上の犬では少ないようです。また、老齢となり免疫力が低下してくると発症しやすいようです。理由は不明ですが、長毛種より短毛種に寄生が多く、また色の着いた犬に多いようです。症状は初め、眼や口の周り、前後の足先に多く見られ、やがて全身性に広がっていく傾向にあります。ニキビダニの多数寄生により、皮脂腺は拡張、破壊し、脱毛をきたすし、皮膚の血管は拡張、充血し、真っ赤になります。
症状には、皮膚がはがれ落ち、脱毛が広がっていくような経過をとる乾燥型と、細菌の二次感染を受け、化膿してジュクジュクになる湿潤型があり、湿潤型の方が重症であることが多いです。一般に、ニキビダニだけが感染した場合はかゆみや痛みはほとんどありませんが、細菌やほかの寄生虫の感染が合併するとかゆみが激しくなります。猫にもまれに発症し、ポチッとしたできものが見られますが、全身性とはなりません。

【診断】
特徴的な症状(かゆみやその場所)から本症が疑われたら、虫体を発見することが確定診断に必要ですが、初期ではかなり困難な場合があります。虫体の証明には、皮膚を出血するまで引っ掻いて(皮膚の深いところにいる場合が多いので)、10〜20%水酸化カリウム水溶液で皮膚片を溶かしてから、顕微鏡で検査します。実際にニキビダニが多数寄生していても見つからない場合も多いので、数回の検査が必要になります。

【治療】
原則として皮膚を保護することが重要です。抗生物質の内服や塗布により細菌の二次感染防止に努め、殺虫を進めると同時に、栄養状態、ストレス、飼育環境に注意し、免疫力の上昇による治癒を待ちます。ステロイド剤を用いて痒みをおさえることは、かえって免疫力の低下を促してしまうので、この場合は禁忌です。
殺虫の方法としては、外部寄生虫の神経系を狂わせる薬剤であるイベルメクチンの注射
(週1回を2〜4回以上)や、アミトラズという薬剤で2週間に一回程度薬浴させる方法などがあり、これらは平行して行うとより効果的です。
いずれにせよ、一度かかってしまうと1ヶ月〜1年以上の長期に渡る治療が必要となりますし、完全な治癒も困難な場合もあります。
また、イベルメクチンはフィラリアの予防薬としても使われているものなので、フィラリアに感染している動物(犬でも猫でも)に用いると、フィラリアの子虫であるミクロフィラリアを殺してしまうことになり、その死体が血管につまるとショックの状態になるので、事前にフィラリアの検査が必要になります。


獣医師 斉藤 大志 2001.6.17


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