◇医療情報−前十字靱帯断裂


犬で多発する関節疾患は、股関節(骨盤と太ももの骨の関節)と膝関節(太ももの骨とすねの骨の関節)の疾患であり、膝関節の疾患においては膝蓋骨脱臼と前十字靱帯の断裂が代表的な疾患です。
前十字靭帯は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ靱帯で、その役割は、
1.大腿骨に対して脛骨が前に飛び出さないように抑える。
2.膝の関節が伸び過ぎないように抑える。
3.脛骨が内側にねじれないように抑える。
などがあり、膝関節が正常な範囲を越えて運動しようとするのを抑える、言わば「膝関節のリミッター」なのです。
前十字靱帯の断裂は、何かの拍子で、そのリミッターが切れてしまった状態で、当然、膝関節は好き放題の動きをするようになり、痛み、それに伴う後ろ足の挙上(足をあげたままにする)、跛行(足を引きずる)などが出てきます。

【原因】
前十字靱帯は、年をとるともろくなり、切れやすくなります。また、肥満しているコは、常に膝に余分な力が加わっているため、靱帯が伸びて切れやすくなります。そんな状態の膝に急激な力(打撲、ダッシュした後の急激なターン、事故など)が加わったらどうでしょう?切れますよネ。ほかにも、がに股(O脚)などの骨の形態異常や、膝蓋骨脱臼があるコは、やはり膝関節にかかる力が正常なものではないので、断裂を起こしやすいです。元々、前十字靱帯断裂は、4才以下の大型犬によく見られる疾患でしたが、最近では、室内飼育で肥満している4〜5才以上の小型犬にもよく見られるようになりました。これには、小型犬に膝蓋骨脱臼が多いことが関係しています。また、オスよりはメスに多く、去勢・避妊手術をしていないコよりもしたコに多いことも知られています。(これは去勢避妊手術後の栄養管理がうまくいかず、肥満したことによるのです。)

【症状】
断裂した当初は、靱帯が切れたほうの足に力を加えることができないくらい痛いですから、痛いほうの足の挙上が見られたり、両足の靱帯が切れた時は後ろ足が立たなくなります。その痛みは2〜3日経つと減ってくることが多く、慢性化すると、足を引きずるようになります。特に運動後の跛行が顕著に認められます。体重の重いコの場合は、慢性の関節炎になったり、関節がはれてきたりします。

【診断】
前十字靱帯が切れると、上記の1番の役割、「大腿骨に対して脛骨が前に飛び出さないように抑える」ことができなくなります。そこで、大腿骨を持って、脛骨を前に押してみて、正常よりも前に出る(前方引き出し徴候)かどうかの試験を行います(ドロウアー試験)。しかし、この試験、麻酔か鎮静をかけて、膝周りの筋肉をゆるゆるに弛緩させてからでないと、正しい結果が分かりません。靱帯が断裂していても、周りの筋肉が頑張って、膝関節を正常に保とうとする場合があるからです。そのため、この試験は、飼い主さんがやるものではなく、獣医師による血液検査(麻酔をかけて安全かどうか調べる)、麻酔、レントゲン撮影と共にやることになります。

【治療】
ワンちゃんの運動量や体重にもよりますが、靱帯を外科手術で修復する、外部固定で固める、その他、鎮痛剤による内科療法などがあります。一般に、中型犬以上になると、外科手術が必要な場合が多いです。
この疾患は、肥満や運動不足によることが多いので、適切な食餌管理や適度の運動による予防が大切であり、膝蓋骨脱臼のひどいコは、それを手術で整復することが一番の予防になります。また、この疾患が疑われるような場合は、すぐに獣医師の診断を受け、それまでは軽い運動も控えて、安静にしてあげておいて下さい。




獣医師 斎藤 大志  2002.1.10

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