◇医療情報−犬の出産


出産は新たな命の輝き出す喜ばしい瞬間です.しかし,ほとんどの動物は自宅でその瞬間を迎えることになるため,見守る側としては緊張する瞬間でもあります.そんな瞬間を落ち着いて迎えられるように分娩の際,どのような兆しがあるのか知っておいてください.

妊娠期間)
ワンちゃんの妊娠期間は平均して63日です.実際には,交尾から受精まで身体の中でズレが生じるため,56〜72日と幅があります.

分娩直前の行動の変化)
分娩の数日前から落ち着きがなくなります.寝所を探し,注意深い行動をとるようになり,場合によっては全く食餌を食べなくなります.分娩直前12〜24時間になると巣づくり行動をします.

体温の変化)
妊娠末期に起こるホルモンの濃度の変化によって直腸温が下がります.定期的に計っていると,分娩約1週間前くらいから直腸温の変動が始まり,分娩直前8〜24時間には急激に下がります.
個体差はありますが,小型犬で35℃,中型犬で36℃くらいまで下がり,大型犬では37℃以下になることはまれです.
直腸温は人間用の体温計(簡単に折れない樹脂製のものをお薦め)をお尻の穴に入れてあげれば計れます.

いよいよ分娩)
・第一ステージ…身体が出産の準備をするステージで,体温が低下してから6〜12時間続きます.徴候としては,不安そうになったり,お腹を見たり,あるいは落ち着きのなさが強まります.また,舌を出してハアハア息をしたり,寝床を作り直したりします.体温を上げるための震えが見られるのもこのステージです.まれに吐くこともあります.

・第二ステージ…直腸温が上昇し平熱あるいはやや高温を保ちます.子宮が収縮するため,お腹に力が入ります.胎水(透明な液)が流れてきたら赤ちゃんが産道に入ってきた証拠です.もう少しだ.頑張れ.このステージに入っておよそ4時間以内に膜に包まれた最初の赤ちゃんが見られるはずです.お臍は自分で切ることもありますが,助けが必要そうなら,約1p残してお臍を切ってあげましょう.出血を最小限にするように少し先で縛ってから切ると良いでしょう.

・第三ステージ…それぞれの赤ちゃんの娩出後15分以内に胎盤が出てきます.胎盤がでてくる前に次の赤ちゃんの第二ステージが始まることもあります.とても吐きやすい時期でもあるため,胎盤はなるべく食べさせないようにしてください.誤嚥性の肺炎を起こしてしまうことがあります.

分娩の間隔)
最初の赤ちゃんに一番時間がかかり,その後は5〜120分のギャップがあります.

分娩終了お疲れ様)
赤ちゃんの数だけ第二ステージと第三ステージを繰り返し,おおよそ6時間程度ですべての赤ちゃんが生まれます.ただし,長いと12時間以上かかることもあります.頑張ったね.

以上,順調に出産が進んだときのおおよその流れです.あなたもワンちゃんも大変でしょ.でも,その分だけ喜びも大きいと思います.

交尾の日がある程度わかれば、出産予定日が確定できます。
交配後30日前後にはエコーにて妊娠の確認をして、出産予定日の1週間前にはレントゲンにて頭数と骨盤の大きさを確認して下さい。いざ、出産の時にあわてなくてすみます。

せっかく生まれた赤ちゃんの命に責任がもてそうもない,あるいはこんな大変な出産に付き合いきれないというのなら,そういう事態になる前に赤ちゃんができないように手術をしてあげてください(避妊・去勢のすすめ参照).増やすのは幸せな命だけにしてあげましょう.


獣医師 堀 吾郎  2001.4.8


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