◇医療情報−腎不全

 腎臓は血液中の不要な代謝産物や有害物質を尿中に捨てて、生体を常にバランスのとれた状態に保つ重要な役割を担っています。このような働きを体液恒常性の維持といい、腎臓が様々な原因によって障害されると、生体は恒常性を維持することができなくなります。
 このような病態を腎不全といい、急性と慢性に大別されます。
 急性腎不全では、大きく分けて、乏尿期、利尿期、回復期の3つの臨床経過を示します。初期の乏尿期には尿量が減少し、尿中へ排泄されるべき有害物質が排泄されなくなり、血液中に蓄積されるために尿毒症といわれる臨床症状を示します。この時期に適切な治療を受け、急性死の危機を免れたネコはついで利尿期へと移ります。この時期に最も注意しなければならないのは、急激な利尿による脱水や、生体内の必要な物質の喪失による体液恒常性の破壊と衰弱です。乏尿期と利尿期とを耐過したネコの腎臓は、やがて正常な機能を営むようになり、回復期へと向かいます。
 種々の原因による慢性の腎疾患により腎臓の機能が徐々に減退していき、遂に体液恒常性を維持できなくなった場合、これを慢性腎不全といいます。本症は特に老齢なネコに多発します。


【原因】
 腎不全は極めて多くの原因により起こりますが、その原因が存在する場所により腎前性、腎性、腎後性の3つのタイプに大別されます。腎前性腎不全は、大きな外傷、出血、脱水、心臓病などが原因となり、腎臓へ送られる血液流量が著しく低下するために起こります。また、腎性腎不全は、感染や腎毒性物質の摂取などにより、腎臓が直接障害されて、さらに腎後性腎不全は、尿石症などにより尿の排泄がスムースにいかなくなったことにより起こります。
 
【症状】
 急性腎不全の症状は、原因疾患により異なりますが、経過と共に食欲不振、嘔吐、下痢、けいれん、衰弱などの尿毒症症状を現します。一方、慢性腎不全のネコは、水を大量に飲む、薄い尿を大量にする、毛づやが悪くなった、食欲にムラがあるなどに始まり、次第にはっきりとした尿毒症症状を示すようになります。また、腎不全が進むと再生不良性の貧血や免疫力低下による感染症などを起こし、病態を複雑にします。

【診断】
 診断は問診、身体検査、血液検査、尿検査、X線検査、生検などの各種臨床検査により行われます。特に尿毒症の進んだネコにおいては、血液尿素窒素(BUN)や血清クレアチニン(Cre)値の著明な上昇が見られます。

【治療】
 急性腎不全の治療は原因の速やかな除去と、尿毒症改善のための輸液、食事療法を中心として行います。原因疾患の除去は急性腎不全の場合特に重要で、これが遅れると急性心不全死を起こしたり、慢性腎不全に移行したりします。また、高タンパク質の食餌は、尿毒症を悪化させるので避けるべきでしょう。
 慢性腎不全の治療は食餌療法を中心に、必要に応じて適切な輸液、及び薬剤投与を行います。食餌は塩分を抑え、少量でも良質なタンパク質と、十分なカロリーを含む脂質および炭水化物を含むものとし、必要に応じ各種ビタミン、ミネラルの補給も行います。また、患者は免疫力が低下しているので、ストレスを避け、清潔と安静とを保てるような飼育環境を作ってあげることが大切です。


獣医師 斉藤 大志 2001.11.13

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