◇医療情報−猫の泌尿器症候群

猫の泌尿器症候群

 猫の泌尿器症候群(FUS)とは、しばしば血尿を伴う少量尿の頻回の排泄(頻尿)と
尿路の部分的または完全な閉塞による 排尿障害を特徴とする疾患です。これは猫によく認められる疾患のひとつであり、特に尿路閉塞がある場合には猫を死から救う ために速やかに処置する必要があります。

【原因】
 FUSの原因は膀胱や尿道に大きな結石、細かい結石、多量の結晶が存在することであり、これらが尿路粘膜を刺激して膀胱炎や尿道炎を起こし、また尿路を閉塞させて尿の流出を妨害します。FUSの発症は、ほとんどの場合ストルバイト (リン酸アンモニウム・マグネシウム)結晶と尿結石形成によるものであり、ウイルスや細菌の感染がこれに一役かっていることが あります。また、尿路閉塞は雄猫によく起こりますが、これは雄猫の尿道が細くて長く、特にペニスの部分では極端に細くなっていることと関係があります。結晶と結石が形成されるためには結石形成成分(マグネ
シウム)の尿中濃度の増加、結石形成に好都合な尿のアルカリ性の状態、尿量と尿の回数の減少が必要です。マグネシウムの尿中濃度の増加にはドライフードが関与しています。缶詰とドライフードのマグネシウム含有量にはほとんど差がありませんが、大部分のドライフードは缶詰に比べて利用できるカロリー量が少ないので全体の摂取量が増え、これに伴ってマグネシウム摂取量が増えます。ドライフード(もちろん全てのドラ イフードがあてはまるわけではありません)を与えている場合にはマグネシウムの尿中濃度は上昇します。尿量と尿の回数の減少は、結石形成に必要な時間を与えてしまうのでFUSにおいてひとつの役割になっています。さまざまな理由による飲水量の減少、トイレの汚れによる排尿の回避、運動不足(去勢と不妊手術、肥満、さまざまな疾患、輸送、室内飼育による)によって起こります。

【症状】
FUSの症状には、膀胱炎や尿道炎によるものと尿路閉塞によるものがあります。これらは、尿をいたる所にもらす、少量の尿を頻繁に排泄する、赤い尿をする、尿の流れが細くなる、ペニスや陰部をよくなめる、排尿時に苦しそうに鳴く、腹部をさわると嫌がる、排尿動作をとっているのに尿が出ないなどです。このような症状は、その猫が尿路閉塞を起こしてない場合には自然に消失することがあり、時には再発を繰り返します。また、尿路閉塞が進行すると、食欲不振、脱水、嘔吐などの症状を呈し、完全な閉塞が三日以上続くとその猫は死亡します。まれに、閉塞のために膀胱破裂を起こすことがありますが、この場合には尿毒症や腹膜炎によるさまざまな症状を示し、この状態の猫の多くは死亡します。

【診断】
診断は飼い主さんからの情報、腹部の触診を含む身体検査、ストルバイト結晶の確認を含む尿検査を基にして下します。またこの他に、血液検査、造影検査を含むレントゲン検査、超音波検査、などを必要に応じて実施します。通常FUSの診断はそれ程難しいものではありません。

【治療】
尿路閉塞のある猫の治療には、輸液療法、閉塞の解除、結石溶解用フードの給与、尿の酸性化、利尿、また必要に応じて抗生物質の投与があります。閉塞の解除法には、尿道のマッサージ、水圧による尿道のフラッシュ、尿道カテーテルの挿入、外科手術があります。尿路閉塞のない猫は食餌療法を中心とした処置によって治療することができます。


VT 加々美敏子 2002.5.12

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