◇医療情報−トキソプラズマ症

トキソプラズマ症はToxoplasma gondiiという寄生虫によって起こる感染性疾患です.猫科動物以外の多くの哺乳類(人も含みます),鳥類が感染を受けますが,自然界では猫のみが糞便中にオーシスト(感染の元になる卵のような世代)を排泄するため,その生活環と伝播の中心的役割を担っています.猫以外では身体の組織中にシスト(虫体の塊のようなもの)を形作り体内に留まります.人間では胎盤を通して胎児に影響するため,妊娠女性において問題視されています.

感染経路)
@猫の糞便中に排泄されたオーシストに汚染された食物の摂取.
Aトキソプラズマに感染した動物の肉のなかに形成されたシストの摂食.
B妊娠中の胎盤感染.

症状)
猫では発熱,食欲不振,体重減少,呼吸器症状,黄疸,腹痛などの症状がよく現れます.その他にも眼に病気が現れたり,神経症状を示すものもいます.
人では妊娠中の女性の胎盤を通して胎児に影響したり,免疫力の低下し
ている状態の人で全身性の症状が現れたりするため,人獣共通感染症として重要視されています.

診断)
臨床症状,糞便検査,血液サンプルによる抗体価測定結果の解釈などを組み合わせて診断を行います.気管支を洗浄した液体や腹腔に針を刺して集めた検体の検査によって直接虫体を証明することができる場合もあります.

治療)
現在数種類の抗菌剤(クリンダマイシン,ST合剤など)がトキソプラズマに感染した猫に使用され,効果を示しています.

猫の感染予防)
@生肉,レア肉を与えない.
A屋外における狩猟行動をやめさせる.つまり,室内で飼育する.

人の感染予防)
@生肉,レア肉を食べない.
A肉を調理した器具をお湯,石鹸でよく洗う.
Bすべての果物,野菜は洗ってから食べる.
Cオーシストが伝染力を持つようになるには排泄後の時間経過が必要なため,猫のトイレ掃除をまめに行い(妊娠女性と免疫力の低下した人にさせてはいけません),オーシストが感染力を持つ前に感染サイクルからはずす.

妊娠している女性における問題)
動物病院によくある質問に妊婦はトキソプラズマ症に感染している猫を飼うべきではないのかというものがあります.
確かに妊娠中にT.gondiiに感染した女性の60%で胎児へ感染が移行します.しかし,猫の被毛に直接触れることによって伝染性のあるオーシストが伝播されることはなく,また,猫が舐めたり噛んだり,あるいは引っ掻いたりすることで感染は成立しないという研究データがあります.
つまり,日常的な接触では伝播はほぼないと考えてよいでしょう.
重要なのは上記の予防対策をしっかり実践し,同居人は妊娠している女性に決して猫のトイレ掃除をさせないということです.そのことを守り,常識的な範囲で猫ちゃんに接するなら,かわいがっている猫ちゃんと離れる必要はないでしょう.
また,妊娠前に抗体価が上がっている女性は感染が赤ちゃんに移行することはありませんので,事前にご自分のトキソプラズマ抗体価を測っておくことは重要です.
      


獣医師 堀 吾郎 2001.6.11

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