第九章:ワンちゃんと一緒にいられる職業

9-3:トレーニング関係

登場人物

尚子(27):有名会社のキャリア・ウーマン。だったが、この度、
       会社が倒産し、晴れて(?)無職に。
       現在、再就職先を求めて、就職マガジンとにらめっこの日々を送る。


 前回、動物病院で、軽くあしらわれた尚子は、またもや就職マガジンとお友達の生活に逆戻りしていた。

尚子「何よ、あの院長。人のこと、馬鹿にして。きっと私がみそ…27だから、不採用にしたのよ。そうに違いないわ。」

なんかちょっとドモった所が怪しいですが…。で、次のターゲットは、動物のしつけ関係であった。しかも、盲導犬訓練士…難しいですぞ。

尚子「なになに…1才まではボランティアに預けられ!?1才からは訓練施設に戻り!?現役として働けるのは12才位まで!?そんなに若いの、訓練士って?引退後は施設で余生を送るですって?私の年じゃ、もう完全に遅いじゃない…。えぅっ、えぅっ…。」

※まぁ、皆さん、お気付きの通り、これは「盲導犬訓練士になるには」ではなく、「盲導犬になるには」でしたネ〜。とんだ勘違い娘でございました。

 で、今回は、ワンちゃんをしつける職業のお話。しつける、というとドッグ・トレーナーだけと思われがちだが、今回は、ワーキング・ドッグ(働くワンちゃん)を訓練する訓練士や、ショー・ドッグをしつけるハンドラーの話もしてみよう。

色々、活躍する場があるネ
 まずは訓練士。基本的に、ワーキング・ドッグには2種類あり、身体障害者の手助けをする盲導犬、聴導犬、介助犬と、ワンちゃんの長所を人間のために生かした警察犬、麻薬探知犬、災害救助犬などがある。
 盲導犬は、「大人しく従順」「仕事が好き」なラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバー(他、ジャーマン・シェパードなんかも)が選ばれ、生後50日前後までは親兄弟と一緒に過ごすが、その後、パピー・ウォーカーと呼ばれる子犬育成ボランティアに預けられる。
このパピー・ウォーカーも、言うなれば、ワンちゃんと関わる仕事だが、ボランティアなので、お金はもらえない。パピー・ウォーカーは、盲導犬候補の子犬に、人間社会で生活するためのマナーやルールを身につけさせ、愛情をこめて育てることにより、人間が、信頼でき、安心できる存在であることを認識させる。子犬は、パピー・ウォーカーの所で、1才になるまで育てられ、その後、訓練施設に戻るが、戻った後は、里心をつけさせないために、パピー・ウォーカーと子犬は面会はできない。また、その訓練施設で、適正検査があるが(合格率は4〜5割程度)、もし不適格になっても、パピー・ウォーカーの元に戻ることはなく、他の一般家庭に引き取られ、ペットとして暮らすことになる。適正が認められて訓練に入ったワンちゃんは、服従訓練と誘導訓練(視覚障害者を安全に誘導するため)を受け、約1年ほどでユーザーの元へと渡り、まずは共同訓練を行う。これは、ユーザーである視覚障害者の方と、盲導犬候補犬が、訓練施設に、原則として4週間、一緒に宿泊し、一緒に訓練する。その後、ユーザーの自宅周辺で訓練を行い、本格的に盲導犬として活躍していく。盲導犬として現役で働けるのは、8〜10年と言われ、レトリーバーの寿命は14才前後なので、盲導犬としての役割が果たせるのは12才位が限度。その後、引退し、施設やボランティア宅に引き取られ、余生を送る。日本では引退後の施設が整備されていないのでこの点も問題が多い。犬の高齢化にも様々な問題があるのである。これについては機会があればまた。
で、ちょっと雑学。盲導犬が歩行誘導する時は、白か黄色の胴輪とハンドルをつける決まりになっているが、この装具を「ハーネス」といい、盲導犬は、
これです。これがハーネス。
ハーネスをつけている間は「仕事中である」と意識するように訓練されている。また、視覚障害者が道路を歩く時は、白杖(はくじょう。白いつえ)か盲導犬を使用することが、道路交通法で義務づけられている。くれぐれも”かわいぃ〜”なんて近寄って仕事のジャマしないでね。勉強になりますネ〜。
で、盲導犬訓練士になるにはどうすればいいか?これが本題…。危なく、尚子と同じように勘違いするとこだった。
でもこれがまた大変で、盲導犬訓練士を目指すには、国家公安委員会が指定した、全国に9つある盲導犬訓練施設のどこかに就職することが大前提となるが、どこも毎年の定期採用は行わず、欠員が出たり、施設を拡張する時などに臨時募集を行うケースがほとんどである。募集告知は、各団体のホーム・ページや一般の求人情報などに掲載されるが、一週間程で締め切られるので、タイミング命である。訓練施設にまめに連絡をとるか、日頃からボランティアなどとして、活動に参加しておくと良い。採用条件は、訓練施設ごとに異なり、年齢、学歴も様々である。もし、運良く就職できても、キチンと訓練士として働けるようになるまでは5年位かかるので、相当、犬好き、ボランティア精神旺盛な人でないと勤まらないと思う。
 次に、聴導犬、介助犬だが、これらに関しては、まだまだ社会ではあまり認められていない。2002年10月に施行された身体障害者補助犬法で、初めて、訓練法、認定基準、トレーナーの資格基準が定められたが、民間ボランティアが育成しているということもあり、知らないという人も多いだろう。
 聴導犬は、耳の聞こえない人と暮らし、音を知らせる犬である。街で、「聴導犬」と書かれたオレンジ色のケープ(胴衣)を着用している犬を見たことがあるかもしれないが、聴導犬の仕事は24時間である。なので、仕事を「義務」と感じていると、ワンちゃんにかなりのストレスがかかる。そこで、仕事を「ゲーム」「遊び」として楽しむように訓練
こんな子が…いいかな?
(ファン・トレーニングという)される。なので、聴導犬には、音に興味を持ち、それを人に伝えるという動作を、ゲーム感覚で楽しめるような性格の犬が選ばれる。適正があれば、特に犬種は限られず、雑種でもなれる。ただ、聴導犬の訓練士になるのは難しく、民間のボランティア団体が行っているので、定期採用もなく、欠員出たりしないと募集もかからない。すぐに給料をもらえるようになれるかというとそうでもない。また、ユーザーとなる聴覚障害者とコミュニケーションをとる必要性も出てくるので、手話や筆談なども知っていなければならない。
 介助犬は、肢体不自由者(手や足など、体の運動機能に障害のある人)の日常生活の補助をする犬であり、人間の手となり、足となり、様々なことをしてくれる。介助犬には、盲導犬の白、黄色、聴導犬のオレンジといったようなシンボル・カラーは特にないが、外に出て仕事をする時は、「介助犬」と書かれたハーネスや首輪、コート、介助犬認定証などを身につけている。現在、日本で働いている介助犬は、ラブラドール・レトリーバーがほとんどだが、仕事によっては、小型犬でも十分やっていけるので、特に犬種も決まっていない。訓練士になるのは、聴導犬訓練士と同様で、かなり大変である。身体障害に関する医学的知識を全て身につける必要はないが、ユーザーの障害については理解しておかなければならない。中には、理学療法士や作業療法士の資格も一緒に取るという人もいる。この2つの資格の違い、分かりますか?理学療法士は、身体障害者に、物理的手段を用いて治療・訓練などのリハビリを施す人。例えば、マッサージ、体操、温熱療法、電気療法とか。作業療法士は、心身障害者に、手芸や園芸、工芸、陶芸などの作業を行わせることによって、社会適応能力を養わせる人。精神的なリハビリをする人ですネ。なんか資格の話ばかりで難しいですネ。色んな職業があるもんです。
 で、最後に警察犬訓練士。警察犬訓練士の仕事は、ジャーマン・シェパード、ドーベルマン、コリーなど7種類の犬を訓練し、警察犬に育てあげることである。おまけで、家庭犬のしつけをすることもある。現在の日本には、警察犬訓練士を養成する公立の学校や教習所がないため、訓練士を目指す人は、日本警察犬協会公認の訓練所に見習いとして入所し、実績(5頭以上の犬を訓練)を積んでから、資格試験に合格するのが近道である。訓練や管理法を身体で覚えることが大切なので、入所の際は住み込みが原則である。性別は問わないが、女性が入所可能な訓練所は限られてくる。また、修業期間は3〜6年が目安であり、中学卒業後なら見習いになれる(ただし受験資格は18才以上)。

 次に、ハンドラーだが…何それ?という人も多いと思う。ハンドラーとは、ドッグ・ショーにおいて、ショーに出るワンちゃんをHandle、つまり操縦する、操る人である。ハンドラーの見せ方によって、同じワンちゃんでも、全く違って見えるらしい。プロのハンドラーもいるし(当然、高給もとれる)、ジュニア・ハンドラーと呼ばれる10才以上、18才未満の子供のハンドラーも存在する。ハンドラーは、日本国内でドッグ・ショーを開催する、JKC、ジャパン・ケンネル・クラブの資格である。C級→B級→A級→教士と進むが、C級の取得方法は、JKC会員になってから1年以上たっていれば受けられる。C級の実技試験の内容は、トライアングル(三角形を描くように歩かせる)とアップ・アンド・ダウン(直線を往復させる)である。「何それ?簡単じゃん。家の犬だってできるよ。」と思った方。大甘である。これがなかなか基準が厳しい。歩き方、リードの使い方、審査員との対応、ハンドラーの服装、髪型、
外見は…文句なし、合格!!
ワンちゃんの美しさ(当然、トリミングしてない汚いワンちゃんではダメ!!)などなど…採点基準はかなり多い。ワンちゃんを美しく見せるための職業なので、ハンドラーのスタイルも確かに格好いいが、「格好がいいから」という理由でハンドラーを志すと失敗するらしい。なぜなら…肝心のワンちゃんよりも自分の方が目立ってしまって、目立たせるべきワンちゃんが逆にかすんでしまうから。ん〜、難しい職業ですネ…わびさびが大事、ってこと?




教訓:
一、しつけ、と一言で言っても、人間の役に立てるまで、人間の思い通りに動かすまでは、並々ならぬ努力が必要と心得るべし!!
二、動物に関わる職業は、ボランティア精神が重要。くれぐれもお金やステイタスではないことを肝に銘じよ。


次回は、その他のワンちゃん関連の職業。どんなのがあるの?


獣医師:斉藤大志



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