第九章:ワンちゃんと一緒にいられる職業

9-2:動物病院のスタッフになるには

登場人物

尚子(27):有名会社のキャリア・ウーマン。だったが、この度、
       会社が倒産し、晴れて(?)無職に。
       現在、再就職先を求めて、就職マガジンとにらめっこの日々を送る。


 前回、「獣医師になるには」というテーマを思いっきり無視して、海女さん(正確には尼さん?)を志した尚子だが、今回は反省して(?)、動物病院のスタッフにならんがために、動物病院で面接を受けていた。動物好きの尚子は、過去に動物関係の資格を取得していたため、余裕の表情で、その面接を受けていた…。

院長「…で、希望する職種は、VTさんでも受付さんでもいい、と。トリマーの資格はないんですネ。動物関係の資格って何持ってるの?あまり種類はないよネ?愛玩動物飼養管理士?」
尚子「いえ。」
院長「ドッグ・トレーナーとか?」
尚子「いえ。実は…初生ひな鑑別師の資格を持ってるんです。
この状態では、♂♀は分からんですよ…普通

院長「は?」
尚子「ですから、しょせいひなかんべつし、です。生まれたばかりのヒヨコの性別を瞬時に見分けるエキスパートです。1羽を鑑別するのに4円ちょっと位しかもらえないんですけどネ。」
院長「いやネ、そーゆーの持ってるのもスゴいんだけどさ。動物病院じゃ、ちょっとネ〜。役に立たんでしょ?」
尚子「でも、帝王切開で取り上げた子犬の性別とかも、瞬時に見分けられますよ。」
院長「それ、ヒヨコと関係ないじゃん。子犬の性別なら、チンチンの有る無しで、誰でも分かるしネ…。」
尚子「オス、メス、オス、オス、メス…って、メッチャ早いですヨ。」
院長「そんな何百匹もいないしネ、子犬。」

※ごもっとも。ちなみに、この初生ひな鑑別師、日本人の鑑別師の成績はものすごく優秀で、鑑別率が99.5%という正確さを誇っているらしい。なので、免許取得後は海外で働くケースが多く、今後、1羽当たりの鑑別料がアップすれば、年収1000万円の可能性もあるらしい。やってみたい人は、一応、年齢制限(25才以下)があるので、お早めに…。

 で、今回は、「なるには」シリーズの第二回。動物好きにはたまらない、動物病院のスタッフになるには、である。前回取り上げた獣医師も、動物病院のスタッフだが、今回は、獣医師を回りからサポートする、あるいは、動物病院を、医療だけでなく、美容の面からも盛り上げるスタッフになる方法を紹介する。

 では、獣医師を回りからサポートするのは誰か?これは動物看護士と呼ばれる方々である。簡単に言えば、動物病院の看護婦さん(「看護婦」という名前は差別ですネ。「看護師」さんです)である。動物病院によっては、AHT(アニマル・ヘルス・テクニシャン。
略して、アニテク…海外では通じませんが))と呼ばれたり、VT(ベテリナリー・テクニシャン。Veterinaryは、「獣医の」の意)と呼ばれたり、アニマル・ナースなんて呼び方もある。当院のホーム・ページのスタッフ紹介を見て頂ければ分かる通り、人間の看護師同様、圧倒的に女性が多い職業である。
 仕事内容は、獣医師の診療の助手をしたり、検査を手伝ったり、薬を調合したり、手術の助手に入ったり、入院やホテルに入っている動物の世話、受付や会計などの窓口業務、飼い主様の応対などなど…様々な仕事をこなす。人間の病院の場合、内科や外科、眼科、歯科、耳鼻咽喉科、腫瘍科など、それぞれの専門医が診察にあたるが、動物病院の場合は、獣医師が全ての分野を診察するので(つまり、一人総合病院である。これからは、分業していくかもしれないけどネ)、動物看護士さんの素早い、しかもこまやかなフォローが何よりも重要になってくる。また、診療面だけでなく、獣医師と飼い主様とのクッション役となったり(獣医師には聞けなくても、看護士には聞ける、という飼い主様もいらっしゃる)、ペットの容態を心配する飼い主様のケアを行ったりと、穏やかで、かつ心優しいサポートができる看護士は、動物病院に欠かせない存在になっている。
 では、どのような人が向いているかというと、動物好きであることは大前提だが、動物の命に関わる職業なので、責任感と、臨機応変に対応できる判断力、物事を客観的、かつ冷静に見られる目を持つことも大事である。可愛い動物を世話するだけでなく、時には動物の死に立ち会うこともある。が、その度に感傷的になって、メゲていたのでは仕事にならない。もちろん、飼い主様の気持ちを思いやる優しい気持ちは必要だが、あくまでもプロに徹することが求められる。
 また、周りのスタッフとのチーム・ワークが重要なので、協調性があり、こまやかな心配りができ、社交的で明るい性格の人に向いていると思われる。また、大半が、病院の中を行ったり来たりの立ち仕事なので、体力も重要になってくる。
このサイズ…なかなかキツイですよ
ゴールデン・レトリバーなどの大きい犬が、耳掃除で来院された時に、ガシッと保定(動かないように押さえ込むこと)できるパワフルさも要求されるのである。
 では、動物看護士になるにはどうするか?欧米では、すでに独立した専門職として制度化されているが、日本ではまだまだ新しい職種なので、人間の看護師のような統一された公的資格はなく、大学なんかもない。一般的には、養成学校に入学して、そこが定める独自の資格を取得する(院長曰く、この資格は何の役にも立ちません)。もしくは、そのような学校には行かず、現場で技術を身につけたいという人は、動物病院で働きながら学ぶこともできる。ノア動物病院も、そんな"実践身につけ型"を受け入れている病院の一つだが、やはりそのような病院はまだ少ないので、まずは近所や、自分のペットのかかりつけの病院に、そのような求人がないか、聞いてみるのがいいだろう。

 お次は、医療と美容のコラボレーション、「トリマー」になるには、である。トリマーとは、ペットの美容師さんであり、全身のお手入れをグルーミングということから、「グルーマー」とも呼ばれる。ただし、美容師と言っても、ブラッシングやシャンプー、カットだけでなく、爪切りや、耳掃除、皮膚を中心とした健康チェックなど、全身のお手入れを行う。また、ペットの美容室での仕事はこれ位だが(中には、無麻酔のまま、歯石取りをしてくれる所もあったりするけど…少ないよネ)、ノア動物病院のように、動物病院に併設されたトリミング・コーナーの場合は、もっと高度なことも行う。例えば、ペットのお腹に寄生虫がいないかどうか調べる検便(もちろん最終チェックは獣医師が行う)、フケっぽい、脂性、全身かゆい、アレルギーなどの皮膚病で病院へ通っている子の薬浴(治療効果のあるシャンプーを使用。獣医師が選択)、暴れ猫ちゃんのシャンプー(
女性の憧れの職業の一つでしょうネ
鎮静という、軽い麻酔をかけて行うことも。当然、注射するのは獣医師)、心臓の悪い子を注意しながらスピーディーに洗うなどなど…時には、診察に来ている子の爪きり、毛玉除去、下痢下痢ピッピの子のお尻だけをシャンプーしたり、鳥モチにかかった猫ちゃんのシャンプー(サラダ油でモチを取って、中性洗剤ですすいで、そんで、最後にシャンプーする)をしたりもしてくれる。
 では、どんな人がトリマーさんに向いているか?やはり、動物好きということは大前提だが、トリマーさんはあくまでも接客業である。飼い主様とのコミュニケーションも重要なので、「動物は好きだけど、人付き合いは苦手」という人には向いていない。
ほら、人間の美容師さんだって、お客さんとよく話すでしょ?床屋さんはあんまり話さないけどさ。あとは、さすがに「美」を扱っている職業なので、技術とセンスが要求され、手先の器用さも問われる。プラス、1日の大半が立ち仕事だし、シンクに動物を入れてシャンプーする時なんかは、結構、腰を曲げてやるので、かなりの重労働である。トリミングに来る子が、皆が皆、トイ・プードルのような小型犬という訳ではなく、時にはグレート・ピレニーズみたいな大型犬も来るので、やはり体力が重要となる。また、人間の美容師さんと決定的に違う点。動物は、人間のようにいつでもじっと大人しくしているとは限らないし、気性の荒い子はかんできたりもする(いや、人間でも、ボブ・サップとかなら、かんでくるかもしれんけど。洗うのは楽そうだけどネ)。だから、ハサミやバリカンで動物を傷つけないように、常に神経を集中できる、集中力のある人、我慢強い人が適正があると言える。
 で、トリマーになるには、どうするか?やはりトリマーにも、公的資格はなく、仕事をしていく上で、必ずしも資格は必要ではない。それぞれの養成学校独自の資格(有名所ではJKC、ジャパン・ケンネル・クラブのもの)を取得したり、ペット・ショップ、トリミング・サロン(ペット美容室)などで見習いとして働く、もしくは、第一線で活躍しているトリマーに弟子入りして、技術を身につけるなどの方法がある。現在、活躍しているトリマーの約9割が女性という現状を見ても、
動物好きにはたまりません…
女性に適した職業と言えるが、カリスマ・トリマーの中には男性もいるので、男女どちらでもできる仕事だし、技術を磨いて実力を身につけ、飼い主様との信頼関係を築いて多くの顧客をつかむことができれば、年齢に関係なく、独立・開業したり、フリーで活躍する道も開け、かなりの高収入も期待できる。





教訓:
一、VT、トリマーも、獣医師同様、動物好き&体力勝負できる人、これが基本と考えるべし!!
二、動物好きだけでは勤まらない、人間が好きなことも重要である

次回は、ワンちゃんをしつける職業についてです。尚子も…ちょっとしつけが必要かもネ。



獣医師:斉藤大志



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