第八章:ワンちゃんに関する法律
8-4:きょーちゅー(狂犬病予防注射)

登場人物
知香(21):第二章に登場した智子の友人のトリマーさん。
      定期的に東京に出かけ、トリマーの修行をしているという、
      格好いい一面もあるが、新宿に行くと人混みに酔ってしまうという、
      カントリー娘な一面も持つ。
聖子(21):知香の友人のトリマーさん。
      知香とは高校の時からの友人だが、常に知香にライバル視される、
      優等生的な女の子。


で、前回の続きである。淳の正義の裁きにより、さらし首の刑に処された慎也は、逆ギレして、暴れ始めた。嫌〜ね〜、こうゆう大人って。

慎也「な…なんでワシがそんな罰を受けなならんのじゃ〜!!ボケ〜!!カス〜!!ムキーっ!!」
こんなんに首かまれたら死んでるって…
聖子「何?この人。いきなり性格が豹変したわ。あっ!!よく見ると、首筋にハスキーにかまれた傷跡が!!もしかして…もしかして狂犬病なんじゃ…イヤーーーーッ!!」
知香「強肩病?何それ?」
聖子「知香が知らないのも無理はないわネ。狂犬病は、日本では1957年を最後に根絶された病気だから。これはネ、犬を始め、全ての哺乳類がかかる病気で、"狂う"ような症状が出るのよ。」
知香「狂う?そういえばネ〜、2002年のアーチストで、私、"キック・ザ・カン・狂う(正しくは、クルー)"も好きよ。」
聖子「え?」
知香「さっき、そういう話してたじゃん。もーいーよ。こんな人達、放っておいて、行こ行こ。」
聖子「そうネ。アホくさいし。狂うと言えばネ〜、私、"今いくよ狂うよ(正しくは、くるよ)"も好きよ。」
知香「それ、アーチストじゃないじゃん。」
聖子「そうネ。無理矢理過ぎたか。アハハハハハハ…」
知香「アハハハハ…」

そして二人は、楽しそうにおしゃべりしながら、夜の甲府の街へ消えていき、後には、慎也の悲しい遠吠えだけが響いていた。

慎也「ハリウッド・48時間・ミラ狂う(正しくは、ミラクル)・ダイエットォー…トォー…ォー…」

※はい、お粗末でした。皆、このネタについて来れてんのかな?知ってます?あのオレンジ色のダイエット・ドリンク。48時間、それ以外何も口にしなければ、5kgやせるというダイエット食。当院のスタッフも、何人か試してるんですけどネ(さて、誰でしょう?)。

 さて今回は、法律で決まっている、狂犬病予防注射のお話である。
当院でもよくあるケースだが、飼い主様に、
痛くない、痛くない!!
「混合ワクチンはうっていますか?」とお尋ねして、「はい、年に一回、しっかりうっていますよ。」という返事が返ってきても、後でしっかり聞いてみると、実は狂犬病のワクチンだけだった、ということが数多くある。未だに、狂犬病の予防注射だけで、全ての伝染病が防げる、最悪の場合、フィラリアまで防げると思われている飼い主様が、意外に多くいらっしゃる。
ここでハッキリさせておきたい。毎年、市町村のほうから「うって下さい」という通達が来て、公園とかの集合注射などでうつのは、狂犬病のワクチンである。
獣医師会から委託されている所であれば、動物病院でうつこともある。これは、狂犬病「だけ」を予防するワクチンで、ワンちゃんにうつことが、法律(狂犬病予防法)で決められている。
混合ワクチンとは、狂犬病以外の、ワンちゃん同士の伝染病を予防するワクチンで、動物病院でうつ。中には、獣医師がペット・ショップへ行って、ペット・ショップでうっている、なんてケースもある(ちなみに獣医師資格のない人がワクチンなどの注射を行うと、獣医師法違反で捕まりますので悪しからず)。このワクチンは、うつことが勧められてはいるが、別に義務とはなっていない。良いですか?ゴチャ混ぜにしないで下さいネ。

 では狂犬病とは、どんな病気なんでしょうか?第五章の1でも軽く触れたし、当院ホーム・ページの医療情報にも載っているが、読んで字のごとし、犬が狂ってしまう病気である。原因となるのは、ラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルスである。「ラブド」とは、「こん棒」を意味し、ウイルスの形がこん棒や弾丸の形に似ているのでそう呼ばれる。いずれにせよ、形からして強そうである。また、「リッサ」とは、ギ
リッサ…
リシャ語で「怒り狂う」を意味し、狂犬病の症状から、そのような名前がついたと思われる。
 狂犬病ウイルスは、狂犬病にかかっている動物のだ液に多く含まれ、主として、かまれることで、他の動物に伝染っていく。このウイルスは、元々、神経が大好きで、身体の中に入ると、まず末梢の細かい神経に入り込み、増殖し、徐々に脳などの中枢の神経に達する。かかった動物は、一週間から数カ月の潜伏期の後に発病し、一〜二週間の経過で、ほぼ100%、死に至る。人、犬、猫、その他の動物は、皆、似たような症状を示す。つまり、狂躁型(狂暴型)か、麻痺型である。8割がたは狂躁型を示し、興奮、攻撃など、ホントに"狂ったような"症状が出る。麻痺型は、足腰が立たなくなる等、神経が麻痺した症状となる。人間では、咽喉頭麻痺という、のどの、物を飲み込むための筋肉の麻痺が起き、水も飲めなくなるため、「恐水病」とも呼ばれる。ちなみに”狂牛病”ってのが以前はやったけど、これは、牛に狂犬病と同じような症状が出ることからの命名であって、病原体は狂犬病とは異なる。
 このように狂犬病は、あらゆる哺乳動物がかかり、神経症状を起こし、ほぼ100%死に至る、最高危険度の人獣共通伝染病である。が、聖子も言っている通り(何でこんな事知ってんだ?)、日本では、1957年に根絶され、以後、発生を見ていない。このように書くと、「日本にない病気なら、別に予防しなくても大丈夫じゃん?」と言われるかもしれない。ごもっともである。しかし、日本になくても、海外から持ち込まれる可能性はまだまだ残っているのである。現在、狂犬病の根絶に成功しているのは、日本、韓国、イギリス、オーストラリア、南極くらいである(島国が多い)。それ以外の国では、まだまだ狂犬病で亡くなる人間、動物達が数多くいる。ペット大国である日本には、世界各国から、色々な動物が輸入されてくる。当然、狂犬病を持った動物が日本に入ってこないよう、水際で検疫が行われているが、その対象となるのは、現在、犬、
オレも?君はうたなくてもいいんだってさ
猫、アライグマ、スカンク、キツネである。それ以外の動物が、もし狂犬病を持ったまんま日本に入ってきたら…そういう事態を防ぐための、狂犬病ワクチンなのである。狂犬病に一番かかりやすいのは、やはりワンちゃんであるが、日本のワンちゃんが皆、狂犬病から守られていれば、もし日本にウイルスが入ってきても広まらない。そのために、皆、毎年、頑張って注射をうっているのである。
だから、「ウチの子さえかからなければいいわ」という、自己チューな考え方はやめて、日本のために、皆さん、毎年、狂犬病予防注射をうちましょう。ネ。生後90日齢以上のワンちゃんは、年度に一回、必ずよ。蛇足ですがなんで生後90日齢以上か?ということであるがそれくらいまでの犬は噛まない、ということで決まったらしい…けっこういい加減だね。
 では、次に、どうすれば狂犬病予防注射、略して狂注をうつことができるのか?これにはまず、畜犬登録というものが必要である。これは、「私は犬を飼っています」ということを、市区町村に登録するもので、ワンちゃんの生涯で、一回だけ登録すれば良い。てゆうかしなさい。これも狂犬病予防法で決められているのだから。これをするには、市役所などの環境部に行けば良い(地方によって違いがあるかも)。そこで登録を済ませると、「犬の鑑札」という、名札のようなものをもらえる。これには番号が書いてあり、ワンちゃんはその番号で登録されたことになる。で、その鑑札を、生涯、首につけておくのである(ダサいなんて…言わないでネ)。こうしておくと、もしワンちゃんが迷子になった場合、拾ってくれた人が警察に届けれくれれば、その鑑札番号から飼い主様の連絡先が分かり、すぐにワンちゃんは飼い主様の元に帰ってくることができるのである。だから、鑑札はつけておかなくちゃダメ。見ようによっては、ちょっとオシャレな金属のアクセサリーにも見えるから、ネ(でもアメリカのはかっこいいんだよね)。
 で、この畜犬登録をしておくと、毎年4月頃に、「そろそろ狂注うってネ〜」という、市区町村からの通達が来る。この狂注は集合注射でもやってるし、もし、周りにワンちゃんがたくさんいる集合注射が嫌ならば、獣医師会から委託された動物病院でうってもらうこともできる(無論、ノア動物病院でも可能である)。で、うった後に、
ここにつけてネ
注射済票というのがもらえる。これも、鑑札のように首につけるタイプのものになる。またオシャレ・アイテムが増えるネ…。
また、もし、ガンなどの病気を持っていて、かかりつけの動物病院で、「狂注は負担になるだけだからやめた方がいいよ」と言われた場合は、書類一つで、狂注を免除してもらうこともできる。
さらに、動物病院だったら、健康状態に問題がなければ、狂注と同時に(同じ日に)混合ワクチンを接種することもできるので、手間が省ける。ただ、初めてのワクチンなどは、あまり同時にうたないほうが良いけどネ。なんでかって?もし同時に二つのワクチンをうって、アレルギーを起こしたら、どっちのワクチンに対してアレルギーを起こしたのか、分からなくなっちゃうでしょ。だから。

 そういえば、もう一つ。鑑札、注射済票に加えて、市区町村からもらえるものがある。それは愛犬手帳である。これには、飼い主様の連絡先、ワンちゃんのデータ(名前、種類、性別、生年月日、毛色、体格、鑑札番号など)、何年度の狂注をうったか(そのハンコ)、さらには、市区町村の環境部の電話番号、獣医師会の連絡先、愛犬家の心得なんかも書いてある。この手帳は、畜犬登録をするともらえるので、愛犬家を自称するのであれば、常に携帯していたいものである。
ちなみに山梨県甲府市の愛犬手帳にはこんなことも書いてある。
・飼い犬が人をかんだら届け出を
1)飼い犬が人畜をかんだ場合は、すみやかに最寄りの保健所に届け出、加害犬(かんで傷を負わせた犬のこと)は、ただちに獣医師の検診を受けなければなりません。(山梨県犬管理条例第8条第1項)
2)犬にかまれた者はすみやかに保健所にその旨を届けなければなりません。(山梨県犬管理条例第8条第2項)
これらに関しては、都道府県、市区町村で、かなり違いがあると思うので、各々、自分が住んでいる所の条例くらいはチェックしておいたほうが良い。


教訓:
一、自分のワンちゃんのために混合ワクチンを、日本のために狂注を、毎年必ずうつべし!!


次回から、ワンちゃんにかかわるお仕事をご紹介します。お楽しみに〜。

獣医師:斉藤大志



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