第七章:ワンちゃんのお食事 7-4:通常食と療法食の違いは? 登場人物 ゆみ(27):アメリカからの帰国子女。現在、再びの渡米を目指し、アルバイト中。 和食を世界に広めたいという野望があり、本人も料理教室で勉強中だが、 かなりの味音痴、料理音痴らしい。 敏子(26):ゆみのバイト仲間で、元カリスマ・トリマー。 にもかかわらず、ワンちゃんよりも猫ちゃんが好き。 現在、猫4匹+茶色い(汚れ?)ウェスティのかん太を飼っている。 太り気味のかん太に、最近、動物病院で処方された減量食を与えている敏子だが、一向に体重が減らないのを見て、またまた、ゆみに相談しに行った時の話である。ここまでくると、ゆみの奇怪な料理も、敏子に好奇心を抱かせる物体と化し、敏子は徐々にゲテモノ・ホリックになりつつあった(〜ホリックってのは、〜中毒、ってこと)。 敏子「なんかさ〜、獣医さんを信用して療法食とやらを食べさせてんのに、一向にかん太の体重、減ってこないんだよネ〜。ちゃんと体重に合わせた量をあげてんのにさ〜。」 ゆみ「それさ、やせないヨ。減量食って、今の体重じゃなくて、理想の体重に合わせた量をあげる場合だってあるんだからさ。今の体重に合わせてあげてたら、ますます太るって。」 敏子「そういえば、先生もそんなこと言ってたかな…。」 ゆみ「なかなかダイエットは難しいわヨ。まっ、ダイエットと言えばコレでしょう…ジャジャーン、今回はシンプルにカレー、でございます。カプサイシンが脂肪を燃焼し、ダイエット効果抜群よ。」
敏子「ふーん…何か普通だネ。面白くないな〜。ちゃんとタマネギとかトロトロにとろけたお肉とか入ってるじゃん。」 ゆみ「え?あれ?お肉、入れてないけど。だからダイエット用なのよ。」 敏子「じゃぁ、この茶色い固まりは何なの?(ドキドキ、でもちょっとワクワク…)パクッ……………ルーじゃん、これ。ウェッ!!」 ※チャンチャン。てな訳で、今回は療法食についてである。療法食とは、その名の通り、「病気の治療の方法としての食事」、つまり、病気を治すためのご飯のことである。 ちなみに、英語で言う「Diet」とは、「食餌療法」、つまり、食事による治療のことをさす。現在の日本では、ダイエット=減量、というイメージが強いため、ホニャララ・ダイエットという名前のものは、全て減量用のご飯、と思われている方も多い。これは、はっきり言って、大きな間違いである。ホニャララ・ダイエットの中には、食欲不振のコのための、かなり高栄養なご飯もあったりするので、それを、「これもダイエット用なんだ〜」と言ってあげてしまうと…逆効果、デブデブになってしまう。 なので、全ての療法食の注意書きにもある通り、獣医師の指示に従って、適当な(デタラメな、という意味ではない。適切な、ということ。)量のご飯を与えて下さいな。 では、一言で療法食と言っても、どんな種類のものがあるんでしょーか?全てを紹介すると、ホント、シャレにならない数があるんで、当院でよく出る療法食Best3を紹介しましょう。それは、減量用、尿石用、アレルギー用、である。 まずは、かん太も食べてる減量用から。これは、線維質を多くして、脂肪を減らし、カロリーを抑えている
また、この食事は減量以外にも使える。例えば、ある種の下痢の時。ビチャビチャのウンチをしている時にこのような食事を与えると、下痢ゲリピッピとして流れていく水分が線維に吸収されて、良いウンチ様が大量に出るようになる。 また、ウンチのしつけをする時は、なるべく人間の都合のいい時に、多くのウンチを出して欲しい。そんな時に高線維のものをあげるとベスト!!ウンチの量が増すので、排便量が増えるのである。これならいくらでもウンチのしつけができるネ!! ただし、この減量用にも欠点がある。一つは、敏子がはまった落とし穴。与える量である。ご飯のパッケージに表記されているのは、体重に合わせた一日の給餌量である。しかし減量用の場合、大抵は、現在の体重ではなく、理想体重に合わせた量を与えるよう設定されている。ので、まずは現在の体重の8〜9割位を目標体重として設定し、それに合わせた量を与える。で、その体重になったら、体格をみつつ、次の目標体重を設定する、というようにすべきである。 もう一つは、成長期や妊娠期など、栄養を必要としている時には使用してはならない、ということである。なぜかって…それは当たり前である。減量用なんだから、低栄養にできているので、より多くの栄養を必要とする時に使用すると危ないのである。 次は、尿石用である。尿石とは、おシッコの中にできる結晶や結石のことである。詳細は、当院ホーム・ページの医療情報を参考にして頂きたい。この尿石、原因は、細菌感染など様々なのだが、食事性、体質、
この尿石用に関しては、各社から出ているが、たいていは治療用と維持用がある。治療用は、尿pHを下げて尿石をできにくくする効果があるのだが、ずっと食べているとちょっと体を悪くする可能性がある。例えば、塩分を高くして、ノドが乾くようにし、たくさん水を飲み、たくさんおシッコを出させ、尿石をたまりづらくする効果がある。その場合、長期間食べていると、心臓に負担がかかる。人間でも、心臓が悪い人は、塩味の濃い味噌汁は食べないでしょ?それと同じである。だから、治療用はおシッコの中に結晶が出ている時だけ使って、治ってきたら、効果は低いが、ずっと食べていても大丈夫な維持用に変えるのが普通である。 最後はアレルギー用である。これもよく出る。アレルギーの原因となる物質は、植物やノミ、タバコの煙などさまざまだが、やはり食べ物が多い。牛肉、豚肉、魚、米、牛乳…様々である。普通のご飯には、それらが何種類も栄養源として入っているが、アレルギー用のご飯には、限定されたものしか入っていない。例えば、ナマズとイモだけ、羊肉と米だけ、などである。これらの中から、アレルギーを起こさないようなご飯を選んで使っていくのである。中には、アレルギーの元となるものが全く含まれていないご飯もある。(やはり結構高価です)
そのほかにも、色々な種類の療法食が、各社から出ている。心臓が悪い子用、肝臓が悪い子用、腎臓が悪い子用、腸管での消化吸収の良いご飯、老齢犬用、子犬用、食欲不振の子用、ガンの子用、糖尿病の子用…あ〜もう数えきれまへんがな。最近では、歯石予防用とか、痴呆に効くご飯なんかもあるので、動物病院にお世話になったことのあるワンちゃんは、一度獣医師と相談してみて、その症状に合った療法食を指導してもらうのも一つの手である。大抵の療法食は、栄養バランスよく作られた、総合栄養食なのだから。
教訓: 一、療法食は、獣医師の指示に従って、症状に合ったものを、適切な量だけ与えるよう心掛けるべし!! 次回から、ワンちゃんに関する法律のお話になります。ゆみの不思議レシピとも、これでお別れ。嬉しいような悲しいような…。 獣医師:斉藤大志
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