第六章:ワンちゃんのしつけ
6-4:吠えて吠えてしょうがないんです

登場人物
磨井子(27):小学校の教師。拓也とは幼馴染みで、
       子供の頃からよく泣かしていた。
       現在、傷心の拓也を一時的に保護(?)している。
拓也 (21):大学生。恵子にふられ、途方に暮れていたところを
       姉貴分の磨井子に拾われた。実は、実家はぶどう園をやっていて、
       かなり裕福らしく、現在、アルバイトもせず、親からの仕送りで生活中。


現在、親の仕送りで食べている拓也は、先日、とうとう四度目になるが、金の無心のために里帰りした。が、デンちゃんの無駄吠え攻撃の前に、あえなく撃沈し、玄関さえくぐれずにUターンしてきたという。まぁ、あまり顔を見たことのない侵入者に向かって吠えたのだから、「無駄吠え」ではなかったのかな?むしろ番犬としては、ほめるべき?

拓也 「なんかあそこまでヒドいとネ…自分の教育が間違ってるんじゃないかと思ってくるよ。ちゃんと舶来物のしつけの本読んで勉強したのにな〜。」
磨井子「舶来物って…あんた何才よ。でも、そんな本、読んでたんだ。何が悪いんだろうネ?今までの問題点を、おねいさんに教えてみなさい。ん?」
拓也 「そうね〜、まずは、来い、って言ったのに咬んできたことかな。」
磨井子「その時、なんて声かけてたの?」
拓也 「カメ」
磨井子「は?…え〜っと、それって、もしかしてカムのことかしら?C・o・m・eの?」
拓也 「あ、それそれ。あとは、ウンチしろ、って言ったのに、お座りしちゃうことかな。」
磨井子「かけ声は?」
拓也 「シット、だろ?よく映画で外人さんがシット!!って言ってる時に、字幕で、クソ!!って出るからさ…。ウンチの時の号令はシットなのかなって思ってたんだけど。違う?」
磨井子「デンちゃんを教育する前に、まず、あんたの言語教育から始めた方が良さそうネ…。来いのコマンドはC・o・m・e!!発音はカム!!で、S・i・t、発音がシットのコマンドは座れの意味!!S・h・i・tのシットはウンチの意味だけど、微妙に発音が違うのよ!!知らないなら、無理にカッコつけて英語でしつけようとしないの!!ワンちゃんは言葉じゃなくて、音で命令を理解してるんだから、何語だって関係ないのよ。」
拓也 「じゃあ、スワヒリ語でもいいの?」
磨井子「…あんたが知ってんならネ。」

これは「Shake hand」、つまり「お手」ですよネ
※力強いダメだしですな。でも、磨井子の言ってることは正論。別に、柴は日本語でしつけないとダメとか、グレート・デーン(原産地ドイツ)はドイツ語でしつけないとダメとかはない。コマンドは、一貫していれば何でも良いのである。例えば、お手をする時に、「お座り」って言ってしつければ、その子は、「お座り」と言われたら、お手をするだろう。まぁ、そんなややこしいことしてたら、人間の方が混乱するだろうけど。


 で、今回はしつけの最後、無駄吠えの矯正である。これもしつけ相談で頻繁に聞かれる。やはり、ワンちゃんと一緒に暮らす上で、鳴かれることは一番厄介なことではないだろうか?家の中で変な所にウンチされようが、かまれようが、人様に迷惑はかからない。しかし、鳴き声は御近所様まで聞こえてしまう。郵便配達の人にも吠えるワンちゃんがいるが、これも人様に迷惑がかかっている。なので、無駄吠えはキッチリし
ワンちゃんの言葉が分かればネ。一番ですけど。
つけておきたい。ただ、犬の言い分も理解してあげよう!犬が吠えるのには理由があるんだから。

 では、どのようにしつけるか、まずは鳴かれた後の対応策からお教えしましょ。ドアのチャイムや、外を通る車の音に反応して、ワンちゃんが吠え始めたら、一番簡単なのは、無視することである。「うるさい!!」とか「静かにしなさい!!」などとムキになって怒ると、ワンちゃんは余計興奮して、吠えまくる。なので、あえて無視してやる。これだけで治まる無駄吠えもあるので、まずはお試しあれ。



 次のステップは、やはり咬み癖の時と同じ、吠えたら嫌な思いをする、を教え込む。どうやるかと言うと、ワンちゃんが吠え出したら、「Quiet!!(静かに)」というコマンドと共に、ビター・アップルを口の中に吹き付ける。
吠えてないけど…Quiet!!
このアイテムは6-3でも紹介したが、同じように米酢などで代用しても良い。これを、黙るまで口の中に吹き付ける。当然、コマンドと一緒でないと、ただの虐待である。注意したいのは、顔全体に吹き付けないこと。このビター・アップル、目に入ると結構しみるらしい。経験者に聞いた話なので、確かだと思う。で、覚えてきたら、段々、ビター・アップルを使わず、コマンドだけで黙らせる。
ここで重要なのは、終始一貫したしつけである。前回吠えた時は「Quiet!!」って言われたのに、今回吠えた時はなかった、とかだと、ワンちゃんも混乱してくる。なので、できる限り、無駄吠えした時は毎回コマンドを言うようにする。
また、我慢できない位大きい声で吠え始めたら怒る、とかも良くない。ワンちゃんは、声の音量なんかを理解することはできない。なので、小さい声でも吠えたらコマンド、吠えなければほめてあげれば良い。
さらっと流したが、ここでも基本はほめてしつける、であるのは言うまでもない。チャイムの音に吠えまくっていた子が、「Quiet!!」で静かになるようになったらほめる。チャイムがなっても吠えなくなったらほめる。ま、鉄則ですな。

マスタードは効果大ですヨ
また、吠えると同時に暴れまくる子もいると思う。これも問題。なぜって、暴れていると、口に向かってビター・アップル、が難しくなるからである。こんな時は、「アボアストップ」などのグッズが有効である。これはどんな物かというと、昔あった、ワンちゃんが吠えると、その声を感知して電流が流れる首輪の、虐待しない版のしつけ用首輪である。ワンちゃんが吠えたら、首輪から、ワンちゃんの嫌いなシトラスの強い臭いが出る(より強力な「マスタード」もある)。これなら、暴れていても臭いが鼻先に向かって出るので有効である。ただし、これもコマンドを言いながらでないと、虐待である。最終的な目標は、コマンドだけで静かにさせることなので、ずっと首輪に頼るだけのしつけなら止めた方が良い。ただのモノグサではなく、ちゃんとした使い方をするのであれば、このグッズは有効である。大きめのペット・ショップや通販でも扱っているので、一度試してみてはいかかでしょうか?

ある意味、情操教育に似ているかな?
 また、やはり咬み癖の時と同様、鳴いた時どうこうするよりも、鳴く原因を探って、それをなくすほうが、より根本的な解決になるので、お勧めである。当然、ストレスも無駄吠えの原因になるので、ストレスのない健康な身体作りをすることは基本だが、それだけではないことが多い。
無駄吠えの原因の多くは、「社会化の欠如」である。子犬は、自信を持った友好的な大人になるための人格(犬格かな、この場合)を形成するために、生後4ヶ月齢までに、たくさんの経験をすることが必要である。
世の中には色々な刺激があふれている。ドア・チャイム、掃除機、パトカーのサイレン、雷などの音や、たくさんの人に触られること、新しい家の慣れない臭いなどなど…。これらは、初めて接すると怖いものだが、一度触れておけば、慣れておけば、恐怖の対象にはならない。人間と同様、ワンちゃんも子供の頃、特に3ヶ月齢までは、怖いもの知らずである。なので、できる限り早い段階で、色々な刺激に触れさせる。これが社会化である。これをしておかないと、大人になってから、色々なものを怖がるようになる。すると、ワンちゃんはどうするか?本能的に「吠え」ますわな…。これが、無駄吠えの根本的な原因なのである。

この音…結構嫌いな子、いますよネ。
では、子犬の社会化はどのように行うか?一番簡単なのは、色々な音に慣れさせることである。ドアのチャイムやノックの音、掃除機、ドライヤー、洗濯機などの家電の音は、家の中にあるので、早々に子犬に聞かせておく。重要なのは、徐々にやること。チャイムの音を聞くとビクビクするから、早く慣れさせようとして、ピンポンピンポンやるのは大間違い!!。怖がるもの程、少しずつ慣れさせていく。
あと、周りの人間がリラックスした状態でいるのも重要。掃除機をかけながら、人間は特に意識をしない。そうすれば、掃除機の音は何も特別なことじゃないんだ、と子犬は理解することができる。
家の中にない音、例えば、車の音、道路工事の音、電車の音、踏み切りの音、子供の遊ぶ声などは、外で録音して、家の中で聞かせても良い(当院ホーム・ページのグッド☆アイテムズ、サウンド・トレーニング
私は最初に食べる派です
CDも見たってや)。子犬がリラックスしている時に、静かな音量から聞かせ、少しずつ音量を上げていく。で、怯えてきたら音を止めて、落ち着かせるために体をなでてあげる。これを繰り返す。これも決してあせってはいけない。調子の良い時は、「一気に大音量にチャレンジ!!」ではなく、「今日はこれ位でやめておこう」がベストである。ワンちゃんのしつけ全般に言えることだが、しつけのトレーニングは、「いつも良い思いをして終わる」のが基本である。人間だって、美味しいものは最後に食べるでしょ?あ、逆の人もいるか…。
ほか、家の中で簡単にできる社会化訓練は、触られるのに慣れさせることである。当然、大きくなったら動物病院で診察を受けたり、トリミングのために美容室に預けられたりするので、その時、オドオドしないようなしつけも大事である。やり方としては、抱き上げたり、テーブルの上に置いたり、目の周り・耳・歯・足の裏・尾をベタベタと触ってみる。ここで注意したいのは、ワンちゃんがパニックになった時の対
こういうコト、しますからネ
処法である。「お〜、よしよし、怖かったネ〜」は、一番やりがちなことだが、一番やってはいけない。なぜなら、なぐさめることは、パニックをほめることになるからである。ワンちゃんがパニックになったら、床に降ろして、無視して立ち去る。これが一番。ちょっと可哀想だが、ちゃんと静かにしていられた時だけ、ほめてあげれば良いのである。

 以上が、子犬からできる無駄吠えの予防だが、成犬の場合も、無駄吠えの原因治療は重要である。その方法として、まず飼い主様にやって頂きたいのは、「観察」である。つまり、どんな時に無駄吠えが出るかを調べるのである。それがチャイムの音に対してだったら、成犬でも、その音に徐々に慣れさせていくことが有効である。
成犬になってから、全てのことに対して社会化をやり直すのは大変だが、せめて無駄吠えの原因に対してだけなら、と思えば、飼い主様も気が楽でしょ?
観察も、時にはビデオ・カメラを使用して、本格的にやらなければならないこともある。例えば、飼い主様の留守中だけ、ワンちゃんがうるさい、と、近所から苦情が出る時などである。飼い主様が家にいる時は、リラックスしているから、どんな音がしても鳴かないのに、留守になると、途端に弱気になって、小さな音にも
観察…・
ビビッて鳴く子もいるのである。
また、「分離不安」で鳴く子もいる。飼い主様が留守になった途端、鳴きまくる、部屋を散らかしまくる、ウンチ・オシッコをそこら中でする、などなど…。これに関しては、飼い主様の家の出方に、大抵、問題がある。「行ってくるよ〜。ゴメンね、独りにして〜。すぐ帰ってくるからネ〜。」といった甘やかしの声は、この病気の原因となる。
このように、家を出る時に甘やかしてしまうと、ワンちゃんが飼い主様と離れることに不安を覚えてしまうのである。そして、飼い主様を求めて、問題行動を起こす。
なので、この病気を予防するには、スパッと家を出るのが一番である。全くワンちゃんに声をかけず、見送りに来ても無視して家を出る。ちょっとツラいが、こうすることで、かなりの確率で、この病気は治せる。しかし、この分離不安、当院ホーム・ページの医療情報に載るだけあって、立派な病気なのである。もし、それだけで解決しない場合は、動物病院に相談して頂くのが賢明である。


教訓:
一、吠えたら怒るではなく、吠えたら嫌な思いをすることを教え込み、ワンちゃんが自分から吠えなくなるよう、しつけるべし!!(ん…どこかで聞いたような…。あっ、6-3の教訓のパクリじゃん)
二、しつけ云々よりも、まずはストレスのない健康な身体作りをし、自然とワンちゃんの無駄吠えがなくなるよう努力すべし!!(また…)
三、無駄吠えの原因は、ほとんどが社会化の欠如。子犬の頃からの社会化も重要だが、成犬になってからも社会化し直しの努力をし、無駄吠えの根本的な治療を心掛けるべし!!


次回からは、食事に関しての章になります。肥満、やせ過ぎ、ダイエット…。

獣医師:斉藤大志



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