第六章:ワンちゃんのしつけ 6-3:咬んで咬んでしょうがないんです 登場人物 磨井子(27):小学校の教師。拓也とは幼馴染みで、 子供の頃からよく泣かしていた。 現在、傷心の拓也を一時的に保護(?)している。 拓也 (21):大学生。恵子にふられ、途方に暮れていたところを 姉貴分の磨井子に拾われた。実は、実家はぶどう園をやっていて、 かなり裕福らしく、現在、アルバイトもせず、親からの仕送りで生活中。
拓也 「は〜、またやられたよ…。あの犬、もうダメだな。オレのこと、完全に下の者扱いしてるもの。しつけなんてやるだけムダだよ…。」 磨井子「そんなに悲観するもんじゃないよー。もっと前向きに考えなよ。例えば、ほら、拓也のお肉が美味しそうに見えたのかもしれないじゃん?良かったネー。肉食動物に認められたのよ、お肉の質が。オージー・ビー○も真っ青じゃない!!」 拓也 「そうだよネ…そうか!!発想の転換だよネ!!365度、視点を変えてみればいいんだっ!!」 磨井子「何、そんなに意気込んで間違っちゃってんのよ!!何よ、365度って!!それを言うなら180度でしょ?何、一周して、しかもちょっと行き過ぎちゃってんのよ!!」 拓也 「もう…かみつかれてばっかりだよ。」
今回は、かみ癖の矯正についてである。なんで、しつけの中で、「トイレ」「かみ癖」「無駄吠え」が特別に取り上げられているかと言うと、なんてことはない、最も相談の多い3つだからである。 正直な話、私が獣医師として働き始めて、しつけに関してまず覚えたのが、この3つに対する解答であった。まぁ、これだけ抑えておけば、約9割、しつけに関する相談は乗り切れるのである。 ということで、いきなり、かみ癖の矯正法をお教えしましょう。 よく、ものの本には、「かまれたら怒る」「かまれたら、ノドの奥にそのまま手を突っ込む」「かまれたら、マズル(口先)をつかんで大声で怒る」などと書いてあるが、いずれも正解ではない。というか大きな間違い! 一番良いのは、「かまれない」ことである。 「だからそれが無理なんだって…」と、突っ込みが入りそうだが、それがそんなに難しくはないのである。その方法はというと、ワンちゃんが嫌がる匂いを、かまれたくない所に振りかけておく。これだけである。 例えば、ワンちゃんは、柑橘系の匂いが苦手である(例外もいるけど)。なので、そのような匂いを自分の手に振りかけて、それからワンちゃんと遊ぶ。で、ふざけて、ワンちゃんが甘がみしてくる。すると、「あっ、人間の手って、苦い味がするー、ペッペッペッ」となり、次第に人間の手をかまなくなる。
これは手だけではなく、かまれたくないもの、例えば、スリッパ、クッション、タオル、柱などにも応用できる。 では、どのようなものを振りかければ良いか?当院が一番お勧めするのは、「ビター・アップル」というしつけグッズである。これはリンゴの苦味成分を抽出したスプレーで、人間が認識できる程の匂いはなく、天然植物成分なので、口に入れても安心の、超強力グッズである。 ただし、このグッズにも弱点があり、柑橘系の味に無反応、もしくは、その味がむしろ大好きな子には通用しない。なので、使用する前にみかんの皮をワンちゃんの口に入れて試してみる。もしペッとやるようなら、ビター・アップル適用である。もし「もぐもぐ、うまい!!」なんて言っちゃう子の場合は、他にも米酢なんかを試してみても良い(ちょっと人間にとっても臭いけどネ)。
このとき無言でやってはいけない。これは虐待。必ず”かむな!”などのコマンドを同時に言って覚えさせること。 また、かみ癖の、元の原因を排除する、という方法もある。ワンちゃんがどんな時にかんでくるか?ちょっと観察してみると分かると思うが、その多くはストレスを感じた時である。
現代社会においては、ワンちゃんもかなりストレスがたまることがあり、その原因となるものは、運動不足、不健康な状態(ノミの寄生など)、競争(近所の犬の存在や吠える声、新しく産まれた人間の赤ちゃんなど)、環境の変化(家庭内の新しい匂いなど)、人間の生活パターンの変更(自分の食事時間も変わる)、飼い主様の長期の不在、飼い主様の不明瞭で一貫性のないリーダー・シップ、など、軽く挙げただけでこんなにある。 で、それに対して、どのような異常な症状を示すか?例えば、食べ過ぎ、食欲不振、いつもと違った場所での排便・排尿(酔っぱらったおじさんの立ち小便と同じかな〜、違うだろうな〜)、攻撃(キレる十代とかネ)、過剰に吠える、過剰に掘る(小判でも出てくりゃいいんだけど…)、過剰に舐める、破壊的にかむ、などである。 ではちょっとここで、ワンちゃんと人間のストレス発散方法を比較してみよう。細かい部分で違いはあるけれど、それらは大きく3つのカテゴリーに分けられる。 1)口によるストレス発散 ワンちゃん:過食症、家を壊す、どこかに執着してなめまくる 人間 :指をしゃぶる、タバコを吸う、爪をかむ、過食症 2)声によるストレス発散 ワンちゃん:吠えたり、鳴いたり、騒いだり 人間 :叫んだり、大声を出したり(「夕陽のバカヤロー!!」とかかな…?)
ワンちゃん:リードを引っ張ったり、ドアに突進したり、逃げたり、メチャクチャ掘ったり 人間 :ウロウロしたり、指で机を叩いたり、毛をむしったり、関節を鳴らしたり、貧乏揺すりしたり これらを見てみて、一番健康的なストレス発散方法は、やはり毎日の運動である。まぁ、それは誰が見ても明らかざんすネ。 では、2番目は何か?それは「かませる」ことである。なので、ストレスを感じたワンちゃんには、拓也の二の腕をかませてあげましょう。嘘です。そんなに何本もないですから。なので、かんでも良いとされるおもちゃをいくつか与えましょう。 ただ、これもなかなか良いものを見つけるは難しい。天然の骨は犬の歯を削ってしまうし、ローハイドガム(牛皮)は、飲み込んだ時に胃の中で何倍にもふくれあがり、とても危険である。また、普通のビニール・ゴム製品は飲み込んだ場合、下痢や腸閉塞の原因にもなる。
特殊な焼きなます工法を使用したことで、砕けにくく、鋭い破片も生じない安全な製品に仕上がっている(あ〜、ますます通販口調…)。 味も、ワンちゃんの大好きな天然のハムボーン味、チキン味、レバー味など(本場アメリカではチョコレート味までありますが当院では扱っておりません)で、嗜好性も抜群!!(お〜!!なんて、観客の歓声なんか入れてみたりして)。耐久性もローハイドガム、プラスチック、ゴム製品の数十倍でとても経済的である。
これらを使って、毎日、「正しく」遊んであげるのが重要である。たかが「遊び」、されど「遊び」であって、ワンちゃんとの遊びにも、基本的なルールがある。 一つ、遊びの始まりと終わりは人間が決める。ダラダラ遊ばずに、ビッと…しめるところはしめる。これは人間がリーダー・シップを発揮するためである。 二つ、攻撃的な遊びは許さない。もしワンちゃんに、口で皮膚や衣服を引っ張られたりしたら、少なくとも1分は、遊ぶのをやめ、無視する。 三つ、どんな些細なことでも、常に人間が勝つ。おもちゃの引っ張り合いなどでもそう。リーダーは常に結果をコントロールするのである。 四つ、もしワンちゃんが人間よりも遊びたがったら、「かむおもちゃ」を与えて、気を反らす。 これさえやっていれば、ある程度、ストレスのない、健康的な生活が送れるだろう。 教訓: 一、かんだら怒るではなく、かんだら嫌な思いをすることを教え込み、ワンちゃんが自分からかまないようになるよう、しつけるべし!! 二、しつけ云々よりも、まずはストレスのない健康な身体作りをし、自然とワンちゃんのかみ癖がなくなるよう努力すべし!! 次回、しつけ最終回。むだ吠えの矯正です。拓也は…また金借りるの? 獣医師:斉藤大志
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