第六章:ワンちゃんのしつけ
6-2:おトイレ覚えてくれないんです

登場人物
磨井子(27):小学校の教師。拓也とは幼馴染みで、
       子供の頃からよく泣かしていた。
       現在、傷心の拓也を一時的に保護(?)している。
拓也 (21):大学生。恵子にふられ、途方に暮れていたところを
       姉貴分の磨井子に拾われた。実は、実家はぶどう園をやっていて、
       かなり裕福らしく、現在、アルバイトもせず、親からの仕送りで生活中。

 現在、親の仕送りで食べている拓也は、先日、またもや金の無心のために里帰りした。実家において、現在しつけの真っ最中である、グレート・デーンのデンちゃん(仮)が、全くトイレのしつけができず困っている、と両親に散々こぼされてからの帰宅であった…。

拓也 「この前話したデーンいるじゃん。あの子さ、やっぱ聞かん坊らしいよ。トイレとか、ちゃんと決まった所にしないからさ、実家がピの海らしいよ。」

 ちなみに、英語でpee(ピー)とは、小便、または小便をする、の意味で、ワンちゃんにオシッコをさせる時のかけ声にも使われる。「Pee」と「火の海」をかけるとは…拓也もなかなか学がある、と妙に感心。

磨井子「そういえば、あたしらが子供の時にもいたよネー。全然ウンチ、オシッコ覚えない拓也んチの犬。いっつも拓也の布団でオシッコしたりウンチしたりすんだけど、絶対に現場おさえることができなくてさー。何度そいつの下の世話させられたことか…。」
拓也 「あ…そうそう、いたネー、そんなコ。ハハハ…。まぁ、もう時効だしネー。笑い話だよネー。」
磨井子「って、ダマしきれてるとでも思ってんの?」
拓也 「え?」
磨井子「あんな大量のオシッコする犬がいる訳ないでしょーが。あんたのおねしょだってことは分かってんだからネ。」
拓也 「いや、オシッコはオレじゃないって。」
磨井子「んじゃぁ、大きい方があんたのかい!!あんなモリモリしたモン、あたしに掃除させてーっ!!」
拓也 「…そんなカッカすんなよ。」

※ちなみにcaca(カッカ)は、フランス語でウンチのことである。ん〜、なかなかやってくれますネー、拓也君も。偶然だろうけど。

基本は同じ…ほめてしつける!!
 さて、今回はオープニングからなかなかアカデミック、もとい、お食事中の方々には、ちょっとお見苦しい感のあるものでしたが、トイレのしつけに関してである。これは、ワンちゃんのしつけの中でも特に難しく、時間のかかるものだが、人間とワンちゃんが一緒に生活する上で、もっとも身につけておきたいテクニックである。

 まぁ、いきなりトイレの話もなんなんで、まずは同じ「衣食住の住」の話ということで、クレート・トレーニングの話から入りましょうか。
では、「クレート」とは…なんぞや?という感じですが、前にもお話しましたが、crate=木枠、編みかご、のことである。日本では、サークルを使う機会が多いのでその方が分かりやすいかもしれない。(別物だけどトレーニング方法は一緒) 要は、ワンちゃんの居場所を確保するための、小さな箱である。
クレートは、ワンちゃんにとって、ねぐらや寝室となる。本能的にねぐらのある動物であるワンちゃんにとって、クレートを与えられることは、何よりの幸せであり、安全な場所を与えてくれた人間を、群れのリーダーとして認める、という効果もある。ここで重要なのは、クレートはワンちゃんの安らぎの場所である、ということである。悪いことをした時に閉じ込めるなど、罰を与える時に使用してはならないし、人間の子供をクレートの中に入れてはならない。なぜなら、クレートの中は安全な場所であり、ちびっ子ギャングにいじめられたり、困らされたりはしない場所だからである。
次に、どのようなものをクレートとして購入すべきか?子犬の時に購入するので、結構ちっちゃいクレートを買ってしまう飼い主様が多いが、それは間違いである。クレートは、生涯を通じて使用できるものを買うべきなので、ワンちゃんが大人になった時、その中で立ったり、向きを変えたり、横になったりすることが十分にできる大きさの物を購入すべきである。(お金持ちは買い換えてください)クレートは、結構むき出しのまま使用されている飼い主様も多いが、できれば、周りに毛布やタオルをかけてあげるのが良い。そうすると、ワンちゃんはフカフカの毛に囲まれ、あたかもワンちゃんの群れの中にいる感覚を覚え、より安心することができるのである。では次に、どのようにして、クレートに慣れさせるか?だが、クレートを初めて家に持って帰った時は、飼い主様自身が興味があるように振る舞い、少なくとも頭だけでもクレートの中に入るようにし、ワンちゃんに、「ここは安全なと・こ・ろ」と分からせてあげる(別に色っぽくする必要はない)。最初はクレートのドアは開けっ放しにし、快適なペット用の枕を入れてあげたり、クレートの中で毎回食事を食べさせ、終わったら枕を戻す、を繰り返す。
我が家が一番、だネ
最初の目標は、「ワンちゃんがためらうことなくクレートに入ること」である。
クレート・トレーニング中は、クレートの外にワンちゃんがいる時は無視をし、中にいる時は注目(→ほめることになる)してあげたり、クレートの中にトリーツ(おやつ)やお気に入りのおもちゃを隠す。そのようにして、クレートに入ることに慣れたら、次は、「クレートの中でいい子にしていること」を覚えさせる。「House(お家に帰んなさい)」や「Kennel(犬小屋へ)」のコマンドに従って、クレートにワンちゃんが入ったら、まずほめ、トリーツをあげる(いずれトリーツはいらなくなる)。
その後、クレートの中でワンちゃんがクンクン鳴いたら、まずはおトイレを疑って、排泄場所へ連れて行く。
もし、おトイレでなくて、ワンちゃんが構って欲しいだけならば、注意を向けずにすぐにクレートへ戻す。絶対に、ワンちゃんから発してきたコマンド(この場合は「出せ出せ」)に従ってはならない。調子に乗るからネ。で、その後も、トイレでもないのにクンクン鳴き続ける場合は、「Quiet(静かに)」などと言いながら、クレートをドンドンと叩き、ワンちゃんを一時的にびっくりさせて静かにさせる。ここで、5秒間静かにすることができたら、穏やかにほめ、静かなのは良いこと、と分からせるのである。こうすれば、ワンちゃんは、クレートの中という安全な場所で、静かに、自分で暇を潰すことを覚えていくのである。


 さて、前置きが長くなったが(最近、よくこの傾向になるな…)、次に、トイレ・トレーニングに入りましょ。理想を言えば、ワンちゃんのトイレは、室内のペーパー・トレーニング(部屋の中で紙の上にさせること)と、室外のトイレ・トレーニング(外に連れ出してさせること)と、二種類でしつけられるべきである。なぜなら、ワンちゃんがトイレに行きたい、と思った時に、いつもお外に連れ出すことができるとは限らないからである。
飼い主様が留守の時、風邪を引いた時、怪我をした時、ワンちゃんをホテルに預けた時、天気の悪い時…などなど、人生何があるか分からないのである。両方でしつける場合は、室外でできた時だけほめてあげて、室内でできた時は特に何もしない。そうすれば、ワンちゃんは、「外ですればほめられるんだ。なるべく外でしよ。」「中でしても、ちゃんと紙の上にすれば怒られないんだ。」と覚えていく。もし、全く室外のトイレ・トレーニングが不要であれば、室内のペーパー・トレーニングだけしっかりしつけて、室内でできた時に、しっかりほめてあげれば良い。

こんな子がいたら、これこそ究極の完成品!!
 それでは、まず室内のペーパー・トレーニングから。目標は、「ワンちゃんに紙(ペット・シーツや新聞紙)の上で排泄させること」である。まず、ワンちゃんの寝床の位置を見極める!!クレート・トレーニングしているなら、クレートで良いだろうし、もししていなくても、いつも寝ている布団、タオルとかはあるはずである。その寝床からなるべく離れた位置に、最初は紙を大きく広げ(畳2畳くらいはほしい)、何枚か重ねて敷く。
ペット・シーツを使うと、えらい量になるので、最初は新聞紙がいいと思う。ワンちゃんは、基本的に寝床を汚さない本能を持っているので、寝ていて、いきなりトイレにいきたくなった場合、なるべく寝床から離れてしよ、と考え、「偶然」、紙の上でしてしまう。
ここがミソ!!最初は偶然で良いのである。それがきっかけとなる。なんかちょっとポエムですネ…人と人との出逢いみたいですネ〜。んなことはどうでもいいのだが、偶然してしまった所、そこにはワンちゃんをひきつける強い臭いが残るので、そこの場所を残して、残りの半分位の紙は片付けてしまう。で、しちゃった所も一番上の紙は片付ける。これを繰り返していくと、少しずつ、紙の範囲を狭くすることができる。ちゃんと紙の上でできたら、ほめる。できなかったら、無視。で、また紙の範囲をちょっと広げる。このような、「三歩進んで二歩下がる」ような気長な作業を繰り返し繰り返しやって、少しずつ紙の範囲を狭くしていけば良い。これができるようになって、紙一枚の上にできるようになると、今度は、どこにその紙を置いても、その紙の上でしかしなくなる。ここまで来ると、かなりのスペシャリストである。完成品と言って良い。なかなかここまでは難しいですけどネ。でも生後2ヶ月くらいから始めれば2週間くらいで覚えられます。

 では次に、室外のトイレ・トレーニングである。目標は、「ワンちゃんを外に連れ出し、コマンドと共に排泄
マナーあるお散歩は…格好いいネ

をさせること」である。コマンドは「Get busy(仕事にとりかかれ。つまり、排泄せぇー、っちゅーこと)」でも「Pee(オシッコしなさい)」でも何でも良い。一貫していれば。そのコマンドによって、人間がさせたい時に排泄させることができる。それが最終目標である。まずはワンちゃんが、いつ排泄したがるかを把握する必要がある。たいていは、散歩、遊び、興奮、臭いを嗅ぐ、食事、睡眠などの後、及び、睡眠の前が多い。
あとはトイレに行きたくて同じ所をウロウロし始めたら危ない。まずはそのような時を狙って、ちょくちょくワンちゃんをお外に出すようにする。その時、「Outside(お外に出て)」などのコマンドを使用すると良い。
お外にはあらかじめ、ワンちゃんのトイレの場所を決めておいて、最初はその場所まで、リードでつないで連れて行き、その場で、排泄するまで繰り返し、「Get busy」などのコマンドを言う。で、うまくできたらほめ、できなかったら無視する。これをあらゆる所で行う。例えば、散歩中。当然、ビニール&スコップは持参のこと。で、公園などでいきなり排泄姿勢をとったら、すかさず「Get busy」のコマンド。で、できたらほめる。これにより、Get busy=排泄を叩き込むのである。そうすれば、最終的にはトリーツなどを使わなくても、人間の都合の良い時に、排泄させることが可能となる。ワンちゃんと車に乗る前、ワンちゃんが寝る前…自由自在である。まぁ、口で言う程、これらトイレのしつけは、簡単じゃないですけどネ。

プールでオシッコする子、いるよネ…(意味なし)
 また、トイレ・トレーニングで重要なことが二点、ある。まず一点は、どんな排泄でも、人間が掃除している所をワンちゃんに見られてはならない(散歩中とかは別ですよ)。ワンちゃんから見ると、人間がウンチ、オシッコの掃除をしているのは、「遊んでくれている」「構ってくれている」と認識されるのである。
だから、間違った所で排泄した時は、ワンちゃんを無視しつつ、ワンちゃんの見えない所で掃除をし、消臭剤を使ってキッチリ臭いをとる。そうしないとワンちゃんは、「変な所でした方が構ってもらえる!!」と思って、あらゆる所でするようになるのである。
もう一点は、正しい所でできたらほめるが、変な所でしても怒らないこと。もし、変な所で排泄した時に怒ってしまうと、排泄=怒られること、とワンちゃんが感じる恐れがある。その場合、怒られないようにワンちゃんがとる行動とは?…見つからないように隠れて排泄するようになるのである。これは最悪。是非とも気を付けて頂きたい。でも結構皆さんやるんですよね。


教訓:
一、クレート・トレーニングで、ワンちゃんに安住の地を提供すべし!!
二、適切なトイレ・トレーニングで、ワンちゃんの排泄をコントロールし、清潔な環境でワンちゃんと生活できるようにすべし!!


次回、ワンちゃんのかみ癖を矯正します。かませ犬は…やっぱり拓也かな?

獣医師:斉藤大志



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