第六章:ワンちゃんのしつけ 6-1:言うこと聞いてくれないんです 登場人物 磨井子(27):小学校の教師。拓也とは幼馴染みで、 子供の頃からよく泣かしていた。 現在、傷心の拓也を一時的に保護(?)している。 拓也 (21):大学生。恵子にふられ、途方に暮れていたところを 姉貴分の磨井子に拾われた。実は、実家はぶどう園をやっていて、 かなり裕福らしく、現在、アルバイトもせず、親からの仕送りで生活中。
拓也 「この間、実家帰ったらさー。なんかデッカい子犬がいてさー。ちょっとボールで遊んでやろうとしたら、何回言ってもボールを離さなくてさ…。かなりの聞かん坊なの。ありゃ、先が思いやられるネ。手に負えなくなるよ。」 磨井子「そんな聞かない子は、一度、グーでガツンとやってあげたほうがいいのよ。」 拓也 「え?グーって…げんこつで殴れってこと?学校でそんなことやってんの?教育委員会に知れたらヤバいんじゃないの?」 磨井子「な…何言ってんのよ、やーネ。良くできた時に、グーねー(Goodねー)ってほめる、って言ったのよ。人聞きの悪いこと言わないでよ。」 拓也 「でも、ガツンって…。」 磨井子「それだけしっかりほめるってことなの!!」
「それって独裁者みたい…。犬とは友達になれればいいんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、それは大きな間違いである。それは「人間」の考え方である。犬は人間と違い、階層のある社会に生きている。まぁ、人間にも貧富の差、上流階級、ブルジョアなんて言葉もありますが…。そういうことではなくて、犬は元々、群れで生活するオオカミを祖先に持つとされている。大きな獲物を群れ全体で協力して捕獲し、生活する。その中にはリーダーがいて、部下がいて、と…階級的な構成になっている。つまり、ワンちゃんはそのように、リーダーに命令され、その代わり、安心できる生活も提供してもらえる…そんな生活に安らぎを感じるのである。ワンちゃんが人間の伴侶になった現代社会では、人間がリーダーになり、ワンちゃんをしっかり管理することで、お互いに快適な生活を送ることができるのである。 また、群れのリーダーがどのように行動するかを把握することで、人間がワンちゃんに対して、どのように振る舞うべきかが理解できる。まず、群れのリーダーは、狩りをするために他を従え、部下はその後につい
また、散歩中にリード(引き綱)を引っ張られている飼い主様、いらっしゃいませんか?これも失格。理想的なのは、「Heel(足もとについて歩け)」という掛け声とともに、ワンちゃんが人間の左側(右でもいいけど)について歩く状態。 まぁ、いきなりここまでは無理なので、せめて、散歩中、人間より先を歩かせないようにする。もしワンちゃんが先に行こうとしたら、短く早く、リードを引っ張って制止するか、もしくは方向転換する。ほら、そうすれば立ち位置逆転するでしょ?散歩中にそんなことばっかりしていたら、なかなか目的地に着かないが、それが有効なのである。リーダーに従わないと、前に進めない、とワンちゃんに分からせるのである。また、子犬によく見られるが、人間が先に行くと、抵抗して踏ん張って、歩かないワンちゃんもいる。その場合、始めはリードを強く引っ張り、それから自分の太ももを軽く叩いて呼び、後に続くようにする。それでもダメなら、数メートル抱き上げて運び、降ろし、また引っ張る。少しでもできたらほめてあげて、ダメなら無視する。 ここでトレーニングの基本原則が出てきたので、それらを紹介しておこう。 1)10秒以上前に起こったことを罰してはいけない。ワンちゃんは5秒で忘れてしまう、と考えておこう。間違ったところにオシッコしたのを発見した時は、それを見せながら叱りましょう、とするしつけ本もあるが、それはおお間違いである。 2)良いことと悪いことを終始一貫して教える。悪い行動は制し、正しい行動にはご褒美を与えるが、悪いことをしても叩いたり、大きい音をたてておどしてはいけない。そうするよう指示している教本もあるが、そうするとワンちゃんが凹んだ性格になってしまう。凹むなら人間に害は及ばないが、叩かれて攻撃的になるワ
それら、「飴(アメ)と鞭(ムチ)」を、毎回必ずやる。例えば、ムダ吠えした時、前回はビター・アップルかけられたのに、今回はかけられない、お父さんは怒るのに、お母さんは怒らない、となると、ワンちゃんはパニックになる。どんな時怒られるかが分からなくなるのである。なので、しつけには、終始一貫した態度が重要である。 3)コマンド(待て、などの命令)の前には犬の名前を呼ぶ。これは注意を引くためである。いきなり遠くから「Come(来い)」とか言われても、周りに他の犬がいたら誰に言ってるのか分からないし、意志も伝わらない。なので、「ラッシー、Come!!」とするのが良い(懐かしい…若い人、分かるかな?)。 4)コマンドは1回だけ。どんなコマンドも続けて言わない。人間だって「はいはい…」って言われるとむかつくでしょ?それと同じ(うそ)。ワンちゃんの名前は繰り返しても良いが、コマンドは1回だけにする。「ラッシー、ラッシー、Come!!」が良い例(くどい…)。犬は言葉を理解しているのではなく、音として理解しているのである。 5)初めにコマンドを教える時は食べ物(トリーツなど)を使う。皆さん、パブロフの犬を御存じだろうか?ベルを鳴らした時に犬にご飯をあげる、ということを繰り返し行っていると、ベルを聞いただけで、犬は条件反射でヨダレをたらす、というあれである。それをしつけにも応用できる、というか、実はしつけの根本なのである。正しい行動ができた時のみ食べ物を与えてほめる、を繰り返し行い、しっかりと学習すると、食べ物は関係なくなってくる。なので、最初は、正しいことができたら食べ物を与えるが、徐々に減らしていき、最終的にはなくすことができる。そうなった後、断続的に(時々)ご褒美として食べ物を与えると、ワンちゃんのやる気を持続させることができる。なんかワンちゃんをだましているみたいだけど、おやつで太らせるのも可哀想でしょ?(人間のエゴかな…)
それ以降はなかなか覚えてくれません)。ベストは、生後2〜6ヶ月齢までに、ある程度覚えさせることである。 7)一番高い位置(リーダー。アルファともいう)にいるのは人間であることを理解させる。アルファ・シンドロームという言葉が問題になっている。ワンちゃんを甘やかせ過ぎて、ワンちゃんがアルファになってしまい、手をつけられない、という家庭が増えているというのだ。これは完全にしつけの問題である。 これら7つの基本原則を骨格とし、他のコマンドで肉付けし、適切なしつけを組み立てていけば、ワンちゃんとのより良い絆を結べるのは間違いない。 で、なんだっけ?そうそう、群れのリーダーがどう行動するか、でしたネ。今回も長いですが、ちゃんとついてきて下さいよ。で、群れのリーダーなんですが、当然一番強いから、リーダーになっている。つまり、リー
オシッコの時間もキチンと計算し、適切なタイミングでオシッコの命令まで出さなければいけないんだから(これに関しては、また次回)。リーダーも楽じゃないネ。 また、リーダーは、群れで獲物を殺した後、最初に一番おいしい場所を食べ、その後で部下が残りを食べる。つまり、リーダーである人間は、ワンちゃんより先にご飯を食べるべきである。ワンちゃんのご飯を用意してから、人間がご飯を食べたり、一緒に食事をしていて、自分の皿からワンちゃんにご飯を与えたりするのは、御法度である。理想的なのは、人間が食事した後、ワンちゃんの前にドッグ・フードを置き、「Wait(待て)」させ、一定時間経ってから、「OK(よし)」で命令解除し、食べる許可を与えることである。そう考えると、昔の人が、人間の食事の残飯をワンちゃんにあげていたのは、ある意味正しいと言える。栄養バランスは、なってないけどネ。
また、リーダーは仲間が近くにいる、一番安全で快適なねぐらを選ぶ。なので、ワンちゃんに自分達の快適な休憩場所(ソファーやベッド)を譲ったり、ワンちゃんが通路をふさいで寝ている時に、人間がよけて通ったり、またいで通ったりするのは良くない。ワンちゃんが寝ていても、「Move(どけ)」と言って、
最後に、リーダーは群れのグルーミング(みづくろい)まで管理し、部下がリーダーのグルーミングをする。つまり、人間がワンちゃんをなで過ぎるのは、あまり良くない。正しい行動をした時に、ほめるためになでるのは構わない。 何でもない時になで過ぎるのが良くないのである。また、変な所にオシッコ&ウンチをした時に、「もう、困った子ネー」と言いつつ、ワンちゃんの見ているところでお掃除をするのも良くない。 「遊んでくれてる!!また変な所でしてみよーっと!!」と思われて、トイレのしつけがなかなかできないばかりか、「あいつ、オレの下の世話までしてやがる…クックックッ。」と思われたら、アルファ・シンドロームへまっしぐらである。 以上、まだまだ書き足りないが、長くなるので、次回以降に分散して書きます…。 教訓: 一、ワンちゃんをしつける際には、人間が群れのリーダーとなることを意識しつつ、一つ一つ、生活の中の行動を改善していくべし!! 二、ワンちゃんのしつけには、終始一貫した態度と、「アメとムチ」による厳格な愛情表現が重要であることを認識すべし!! 次回、ワンちゃんのトイレをしつけます。もとい、排尿・排便をしつけます。トイレに向かって「お手」とか言ってもしょうがないもんネ…。 獣医師:斉藤大志
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