第五章:ワンちゃんを病気から守るには
5-3:避妊・去勢手術

登場人物
涼子(23):某製薬会社の人気受付嬢。
      最近、メスのM・ダックス、レオちゃんを飼い始め、
      その勢いで、ダックス好きのサークルに入会した。
千暁(25):トリマーさん。ダックス好きのサークルで、涼子と知り合う。
      体重10kgにも及ぶダックスを、「ミニチュアです」と言い張り、
      会員の中で一人、JKCにケンカを売っている。


 ある平日の朝、たまたま時間の合った涼子と千暁は、オープン・カフェで一緒にコーヒーを飲んでいた。4回登場中3回、たまたま時間の合っている二人…お互い相当お暇なんでしょうか。

「ネコ科…オレのことかニャ?」
「君の出番は犬編の後でネ。」
千暁「聞いて聞いてー。この前飲みに行った後にさ、レオ(千暁の家のダックスもレオという)のフィラリア予防薬、買いに行ったのネ、動物病院に。したらさー、前の話の流れで『マラリア予防薬下さい』って言っちゃって…大爆笑されたわよ、あの格好いい先生に。もうあの病院行けな〜い。」
涼子「なら今度、私が行ってる動物病院来なよ。そこもなかなか若くて面白い先生いるよ。来月、ウチのレオの避妊手術があるからさ。一緒に行こ。」

千暁「えっ?レオちゃんて…女の子なの?始めて聞いたけど。」
涼子「言ってなかったっけ?華麗の麗に、鼻緒の緒で『麗緒』っていうのよ。可愛いでしょ?」
千暁「ウチのもレオだけど、ウチのは『Leo』からとったのよ、獅子座って意味の。ライオンみたいな勇猛な男の子に育ってネ、って感じで。」
涼子「ライオンってネコ科じゃない。犬にその名前は…どうかしら?」
千暁「(ムッ)…ヤンキーの落書きみたいな名前よりはマシよ。夜露死苦(よろしく)とか仏痴義理(ぶっちぎり)じゃあるまいし。漢字だらけはどうかしら…オホホホ。」
涼子「(ムッ)」

※え〜、
斉藤小粒です(飼い主バカ)
全国の「レオ」ちゃんの飼い主様、及び、「麗緒」ちゃんの飼い主様(コッチは少ないかな?)、申し訳ございません。どうか気を悪くなさらずに。まぁ、名付けに関しては、人のこと言えないんですけどネ、作者である私も。ウチなんか、私の名前が「大志」なんで、一人目のオス猫が「小志」。で、二人目のメス猫が「小」つながりで「小粒」ですから…。「納豆かよっ!!」って言われそう…。でも可愛いですよ。


 さて、
難しいけど…お手上げなんて言ってる場合
じゃないよ!!
ペット自慢のコーナーはここまでにしておいて、今回は避妊・去勢に関してのお話である。まずは「否認?虚勢?何それ?」という方のために、言葉の定義を説明しましょう。避妊とは、人工的に妊娠を避ける処置を施すことで、女の子に施すのが「雌性(しせい)避妊」、男の子に施すのが「雄性(ゆうせい)避妊」といい、去勢手術は雄性避妊の一つの方法なのである。(今回は色々と難しい病名が出てきますが、分からないものがあったら、当院ホーム・ページの医療情報へGo!! 避妊・去勢のすすめも見てネ)

 雌性避妊には、何通りか方法があるが、当院では、卵巣・子宮全摘出術を行っている。卵巣は卵子を作る場所、子宮は受精卵が成長するための胎子のお部屋であるが、それらを全部取ってしまうものである。
ほかの方法も数通りあるが、問題が多い。卵巣だけを取る手術は子宮が残るため、子宮蓄膿症など、子宮が残っているが故に起こってしまう病気になりやすい。子宮だけを取る手術は、卵巣からのホルモンにより、発情期の性格の変化などが残るし、卵巣腫瘍など、卵巣が残っているが故に起こってしまう病気になりやすい。そのほか、交尾しても精子が入ってこないように、卵子が出ていかないように、卵巣や子宮をただ縛るだけの手術や、薬で発情を抑制する処置もあるが、いずれも病気になる可能性は高くなるだけである。ここで、なぜ避妊・去勢手術が予防医学の章で取り上げられているかを考えて頂きたい。なぜなら、早めにそのような手術をすることによって、発生率を下げられる、もしくは完全に防げる病気が多いからである。
健康な状態での手術なら…安心だネ
例えば、子宮や卵巣の腫瘍や、子宮に膿がたまる子宮蓄膿症。ものがなければ腫瘍になることはないし、膿もたまりようがないでしょ。
また、ワンちゃんの腫瘍の中で最も多い腫瘍である、乳腺腫瘍。これの発生率を最も下げる効果のある処置は、一番最初の発情が来る前に子宮・卵巣摘出術を施すことなのである。これは科学的なデータとして、キチンと証明されていることである。日本では、「病気でもないのに手術するのは可哀想」という、ウェットな考え方があるため、結構、避妊・去勢手術を行わずにワンちゃんを飼われている飼い主様は多いが、せっかく予防できる病気なのに、病気になってから手術するほうがワンちゃんが可哀相だと、私は思う。避妊・去勢手術は、健康な時にできる手術である。
子宮蓄膿症になった時も、同じように子宮卵巣全摘出術を行うが、その時は病気の状態なので、危険度は高くなっている。どちらが、よりワンちゃんのためを思った処置だろうか?これは難しい問題である。一概にどちらが正解とは言えない。しかし、当院としては、一度も子供をとる予定がないのであれば、最初の発情前の4〜6ヶ月齢での避妊手術をお勧めするし、何度か出産経験のある子でも、これから先、子供をとる予定がないのであれば、早めの避妊手術をお勧めする。ただし、発情期、妊娠期、産褥期(さんじょくき。出産後のこと)は、卵巣付近の血管が発達しているため、この時期の手術はなるべく避けている。ちなみに欧米では、ワンちゃんの子宮蓄膿症の発生率はきわめて低い。なぜなら、皆、早々に自分のワンちゃんに避妊手術を施すからである。これは果たしてドライな考え方なのだろうか?むしろ、ワンちゃんのことをよ〜く考えている人間の判断のような気がする。

ワンちゃんの家族計画も、飼い主様の責任ですよ
 また、避妊手術は、「病気の予防」だけでなく、「可哀想なワンちゃんの予防」にもつながる。避妊・去勢していないワンちゃん同士を、自由交配できる環境で飼って、大量に子供が産まれ、ほかの人に譲りきれず、自分でも飼いきれず、捨てる。そんな心無いことは、誰もしたくはないが、「仕方がないよ…。」と自分を納得させて、捨てる。しかし、仕方はあったのである。避妊・去勢手術をしていれば、そんなことにはならなかったのである。この辺を、よ〜く考えて頂きたい。


産まれる前でも…一つの命です
 また、当院でも、どうしようもないときだけ、中絶処置、つまり堕胎(だたい)を行うことがある。避妊手術をした際に摘出した子宮と卵巣は、そのまま廃棄するが、堕胎の手術で摘出した子宮の中には、胎子が、つまり生命が宿っているので、飼い主様にお返しし、丁重に葬って頂く。この辺も、よ〜く考えて頂きたい。


 今回は、真面目に、考えて頂くことが多いが、テーマがテーマなので当然である。てな訳で、次は雄性避妊についてである。
当院で行っているのは、陰嚢(いんのう。たまたまの袋です)の前の方の皮膚を一部切って、そこから両方のたまたまを引っぱり出して、摘出する、いわゆる去勢手術である。ほかにも、たまたまを引っぱり出して、精管(たまたま、もとい、精巣でできた精子をちんちんまで運ぶ管)だけをむすぶ手術などもあるが、精巣は残っているので、そこから出るホルモンのせいで、男の子特有の激しい性格は残るし、女の子の時と同様、精巣が残っているが故に起こってしまう病気になりやすい(精巣の腫瘍など)。ほかにも、去勢手術をす
勢したら、大人しくなる、かな?
ることによって、発生・再発の確率を下げられる病気は多い(前立腺肥大、会陰ヘルニア、肛門周囲腺腫など)。当院では、4〜6ヶ月齢での去勢手術をお勧めするが、基本的には、精巣がお腹の中から陰嚢に降りてきていれば、いつでもできる。去勢手術は、避妊目的というよりも、コンパニオン・アニマルとして問題となる、オスの放浪癖、オス同士のケンカ、そこら中でオシッコするなどのオス特有の行動を解消・軽減する目的で行われ、性成熟する6〜8ヶ月齢以前に行えば、その行動も制限されるというデータも出ている。また、たまたまが(早口言葉みたい…)、いつまでたっても陰嚢に降りてこない時、それは陰睾(いんこう)と呼ばれ、片玉のこともあれば、両方降りてこない時もあるのだが、ちょっと手術がやっかいになるので、少し降りてくるまで待ってあげても良い。ただし、8ヶ月齢を過ぎても降りてこない場合、その先、いくら待っても降りてくる可能性はないし、そのままにしておくとお腹の中のたまたまが腫瘍になりやすくなってしまうので、早めに去勢手術した方が良い。

教訓:
一、避妊去勢手術は飼い主のマナー!!
手術しないでワンちゃんを病気にするよりも、手術しないで可哀相な命を作るよりも、早めに避妊・去勢手術を施して、ワンちゃんが健康なまま過ごせるように配慮すべし!!


次回からは、皆さん、興味があるでしょう、「しつけ」の章です。お楽しみに!!

獣医師:斉藤大志



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