第五章:ワンちゃんを病気から守るには
5-3:寄生虫

登場人物
涼子(23):某製薬会社の人気受付嬢。
      最近、メスのM・ダックス、レオちゃんを飼い始め、
      その勢いで、ダックス好きのサークルに入会した。
千暁(25):トリマーさん。ダックス好きのサークルで、涼子と知り合う。
      体重10kgにも及ぶダックスを、「ミニチュアです」と言い張り、
      会員の中で一人、JKCにケンカを売っている。


 ある晩、
トリマー泣かせな犬…
千暁が自分チのダックスのシャンプーをしていると、涼子があわてた声で電話をかけてきた。
涼子「た、た、たいへーーーん!!ウチのレオがガンになっちゃったー!!耳に小豆くらいの大きさのイボができたの。昨日まではなかったのにー。」
千暁「え?いきなり?それって血を吸ったダニなんじゃないの?よーく見てみ。」
涼子「…あ、ホントだ。頭とか足とか生えてる。嫌だー、どこでついたのかな?この子、よくそーゆー虫関係つくのよネ。前も、お尻からうどんみたいな虫出てきたし、肛門周りに米粒みたいな虫がついてたこともあったし。」
千暁「小豆やらうどんやら米やら…一人食いしん坊万歳だネ、レオも。」


真剣に考えないと…怒られますよ!!
※これに、ソーメンみたいなフィラリアが心臓に寄生してたら、完璧だったのにネ。しかし、笑いごとではない。フィラリアに関しては、下手すると命に関わる寄生虫なので、先に別に説明したが、ほかにもワンちゃんを苦しめる寄生虫は、数多く存在する。皮膚につく外部寄生虫として、ノミ、マダニ、疥癬(かいせん)、シラミ、ハジラミ…。消化管内の寄生虫として、回虫、鉤虫(こうちゅう)、瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)、鞭虫(べんちゅう)…などである。その中でも、今回は予防医学ということなので、薬で予防ができる寄生虫にしぼって考えていきたい。一つ一つに関しては、当院ホーム・ページの医療情報に掲載してあるので、そっちを参考にして下さいな。

 まずはノミである。ノミは、体長2mm位の昆虫で、成虫だけがワンちゃんに寄生し血を吸い、卵や幼虫、さなぎは周囲の環境で発育する。かまれることで皮膚に刺激を与え、かゆみが出たり、ノミのだ液がアレルギー反応を起こし、わずかな寄生でも激しいかゆみ、湿疹、脱毛を示す。よく出るのは、背中の腰の辺り
当院お勧めのフロントラインです
や、尻尾の付け根で、子犬よりも成犬での発症が多い。また、ノミは、瓜実条虫(後述)の卵を運んできたりもする(寄生虫が寄生虫を運ぶ)。ワンちゃんには、イヌノミ、ネコノミが寄生するが、最近はそのほとんどがネコノミといわれている。
それらは普通に家の中に入り込み、卵や幼虫の状態で、畳のすき間やカーペット、家具のかげなどで繁殖を繰り返す。
暖房の行き届いた最近の住宅環境では、ノミは冬でも寄生と繁殖を繰り返すことができるので(冬でも室温が13℃以上だと卵からかえることができる)、ノミの被害は日常的、かつ年間を通した問題である。では、どのようにして予防することができるのか?ノミ予防の薬はペット・ショップやホーム・センターに数多く置いてあるが、結構、ダメダメなものも多い(これでもとっても優しく言っているんです)。ノミとり首輪(ノミよけ首輪)は首の周りしか効かないし、「ハーブの香り」とかいうものは、要はノミの嫌いな臭いでノミを一時的に寄せ付けなくするだけで、駆除はできないので効果は薄い。ノミとり用のクシに関しては、結構とりこぼしもあるので、完全にノミ駆除ができる訳ではない(詳細は、当院ホーム・ページの「買ってはいけない」のコーナーへ)。また、飲み薬もあるが、あれは血液中に溶けた薬をノミが吸血することで、初めて効いてくるものなので、「ノミに刺されないと効かない」。それじゃダメでしょ。ノミアレルギーは防げません。ということで、当院がお勧めしているのは、背中にたらすタイプの、ノミの成虫を殺す薬である(おすすめはフロントライン!)。注射とかとは違い、ワンちゃんにストレスを与えることなくたらすことができるし、首の背中の方の一ケ所にたらすだけで、そこから皮膚表面のあぶらを通して全身に行き渡り(つまり、使用前後の3日間はシャンプー禁止!!)、全身の皮脂腺に入り込むので、水に濡れても成分はなかなか落ちない。で、効果は2ヶ月程有効(猫は1ヶ月)だし、同時にマダニ駆除もできるので、なかなか重宝している。マダニに対しては1ヶ月しか有効でないので、当院では、一年中(ここがポイント)、毎月1回、この薬をたらすことをお勧めしている。

こんなコでも…安心…だと思う
 では次に、マダニについてである。マダニは体長4mm位の昆虫だが、血を吸うとお腹がポンポコリンになり、「小豆」大になる。卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニと成長し、卵を除く全ての成長段階で、動物に寄生し、吸血する。マダニは、どのような気候、場所にも適応できる寄生虫で、日本全国に分布するが、特に山で遊んだ後とか草むらで遊んできた後とかに、よく寄生が見られる。マダニが問題となるのは、吸血されることで、貧血、皮膚の細菌感染、アレルギーを起こす、というだけでなく、数多くの病気を運ぶからでもある。
人間にも感染するライム病(発熱、皮膚症状、神経症状を起こす)や、ワンちゃんに貧血を起こさせるバベシア(関東地方にはほとんどありません)という寄生虫を運んでくる(寄生虫が寄生虫を運ぶPart2)。また、このマダニ、一度吸血のために皮膚にくらいつくと、なかなか取れず、無理矢理引き抜こうとすると、頭だけ皮膚に残ることがある。そうなるとその頭が炎症を起こす原因ともなるので、もし、血を吸ってバカデカくなったマダニをみつけたら、動物病院に行くのが賢明である。それよりもっと賢いのは…上記のたらす薬で予防する人、だけどネ。特に、草むらにガンガン入って遊ぶワンちゃんの飼い主様は気をつけましょう。

お腹痛いのは嫌だもんネ
 次は、消化管内寄生虫についてである。消化管内に寄生虫が大量に寄生すると、下痢、嘔吐、血便、食欲不振、ひどい場合は体重減少などが見られる。それぞれの寄生虫に対する駆虫薬があり、大抵は、症状が出て、寄生が発見された時点で治療を行う。が、予防することもできる。どのようにするかというと、フィラリアの薬で行うのである。フィラリアの薬、全部が全部ではないが、中には、フィラリアと同時に回虫(うどん、である)や鉤虫(回虫よりは小さい)を殺せるお薬もある。そのようなフィラリアのお薬を飲んでいれば、同時に消化管内の寄生虫もたたけるので、フィラリアの投薬期間だけは、そのような虫の寄生に悩まされることはない。
その期間以外でかかっちゃったら…それは運がなかった、ということで。とにかく、たたけるものはあらかじめたたいてしまおう、ということで、動物病院でフィラリアのお薬を買われる際は、「一粒で二度おいしい薬下さい」とおっしゃって下さいな(嘘です。カルドメック・チュアブルやミルベマイシンと…)。

こうなったのは…誰のせい?
 最後に、先程ふれた瓜実条虫である。この虫自体をあらかじめ殺す、ということはしないのだが、この虫、ノミのお腹の中に卵が入っていて、そのノミをワンちゃんが食べることで寄生するので、ノミ予防=瓜実条虫予防となるのである。瓜実条虫はサナダムシの一種で、ワンちゃんのお腹の中でビロ〜ンと成長し、そのかけらが、ポロポロとウンチと一緒に出てきて、肛門周囲に付着する(これが米粒の正体)。しかも、そのかけら、本体から離れていてもウニョウニョと動くので、これが肛門周囲にあると、ワンちゃんはむずがゆくて、お尻を地面に擦り付けて歩いたり、お尻をしきりに舐めたりする。
もしそのような瓜実条虫の寄生が見られたら、おそらくノミも寄生しているので、ノミと瓜実条虫はセットで駆虫した方が良い。また、ノミを発見した時点で「プチッ」とノミを潰す方がいらっしゃいますが、これも止めた方が無難。何でかというと、ノミを潰すと、もしお腹の中に瓜実条虫の卵があると、それがはじけて、ワンちゃんの口に入る可能性があるからである。だから、ノミを見つけたら、潰すのではなく、熱湯につけるのが一番である。


…カンペキです
 とまぁ色々と書いてきたが、寄生虫の予防は、何も薬に頼るばかりではない。例えば、消化管内寄生虫は、そのほとんどが、すでにかかっているワンちゃんのウンチに入っている虫卵を口にすることでうつるので、他のワンちゃんのウンチを食べさせない、散歩中に道路をなめさせない、時々環境を熱湯で消毒する、などで、十分に予防できる。また、外部寄生虫に関しても、部屋を清潔に保つ、明らかに皮膚病を持っていそうなワンちゃんと接触させない(うつらない皮膚病ならいいけどネ)などでも予防はある程度可能である。薬を使用するな、という意味ではないが、薬に頼ってばかりでないで、自分でも努力して下さいネ、ということでした。

教訓:
一、予防薬&飼い主様の努力で、初めて完成する、カンペキな寄生虫予防を心掛けるべし!!

次回は避妊・去勢のお話でございます…。当事者は誰?レオ?デカ・ダックス?


獣医師:斉藤大志



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