第五章:ワンちゃんを病気から守るには
5-2:フィラリア

登場人物
涼子(23):某製薬会社の人気受付嬢。
      最近、メスのM・ダックス、レオちゃんを飼い始め、
      その勢いで、ダックス好きのサークルに入会した。
千暁(25):トリマーさん。ダックス好きのサークルで、涼子と知り合う。
      体重10kgにも及ぶダックスを、「ミニチュアです」と言い張り、
      会員の中で一人、JKCにケンカを売っている。


ある平日のアフター5、たまたま時間の合った涼子と千暁は、居酒屋で一緒にお酒を飲んでいた。話題は やはり、お互いのダックスの自慢大会になっていた…(誰だってそうです。自分トコの子は可愛いもんです。関係ないけど、私もまた小志の写真を載せちゃおうかな…)。
 
飲み過ぎると…この二人みたいになっちゃうよ!!

千暁「そろそろフィラリアのお薬、病院に取りに行かなきゃ…。かかりつけの動物病院の先生、ちょっと格好いいのよネー。あー、何か右心室が痛いなー(すごいピン・ポイントな痛がりかた…心臓が痛いでいいじゃんネー)。これは恋の病?それとも…フィラリア症だったりしてーーー、キャーーー!!」(←酔ってます)
涼子「何、フィラリアって?」
千暁「え?涼子、知らないの?レオ飼ってるのに?蚊に刺されてうつる、ワンちゃんの心臓の病気よ。あなたの会社でも予防薬、作ってるじゃない。」
涼子「蚊に刺されて?あー、マラリアのことでしょ?」
千暁「何、マラリアって?『タイタニック』の『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』歌ってた人?…マラリア・キャリー、なんつってーーーっ!!」
涼子「…その曲、マライアじゃなくてセリーヌ・ディオンよ。」


※さっ、酔っ払いは放っておいて、先に進みましょう。でも、よく間違える人はいる。
こいつはフェラーリじゃないワン
動物病院の受付にいらっしゃって、「マラリアの薬下さい」とか「フェラリアの薬下さい」とおっしゃる飼い主様は多いようである。正しくはフィラリアである。フィラリアの名前は、その原因となる寄生虫、犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)の英名、Dirofilaria immitis(ジロフィラリア イミティス)から来ている。マラリアは、確かに蚊によってうつる寄生虫の病気だが、全く別物だし、フェラリアという病気は聞いたことがない。 関西のお金持ちが、「ウチの車、フェラーリやねん」って言ってるみたいに聞こえるので、ちゃんと覚えましょうネ。


 さて、まずはフィラリア症についてだが、詳しいことは、当院ホーム・ページの医療情報を参考にして頂きたい。簡単に説明すると、フィラリアとは、心臓に寄生するソーメンのような寄生虫である。心臓は、全身に血液を送り出すポンプなので、そこが悪くなると、血液のめぐりが悪くなり、肝臓や腎臓、肺などの色々な臓器が壊れてしまう。症状としては、やはり、心臓や肺が悪い時に出てくる症状、つまり、食欲不振、体重減少、散歩に行きたがらない、行ったとしてもすぐ立ち止まったりする、運動後に失神する、空咳(何かノドにひっかかっているような咳)等が出てくる。この病気、かかったワンちゃんだけが悪くなるならまだいいのだが、嫌なことに伝染病である。人にはうつらないし、犬→犬の感染もないが、犬→蚊→犬とうつっていく。つまり、蚊が血を吸う時に、犬から犬へうつしていくのである。
 
犬は喜び庭かけまわり〜♪
ここで一つ画期的な案が!!じゃぁ、蚊がいなければうつらないんでしょ?蚊取り線香たこうよ。と考えるのは、大きな間違い。人間だって蚊取り線香たいてたって蚊に刺されるでしょ?家の中にいたって蚊に刺されるでしょ?蚊帳の中にいたって、それが破れてたらどうすんの?…という訳で、それは画期的な案というよりも、最も危ない考え方なのである。どうしても、ワンちゃんを蚊に刺されることから守りたいという人は、北国へ行って下さい。蚊は気温15℃以上にならないと吸血活動しませんので。

 まぁ、北国へ移住するよりも簡単で確実な予防方法があるんですけどネ。それが、フィラリア予防薬の内服、または注射である。このお薬、世間では「フィラリア予防薬」として通っているし、当院でも飼い主様にそのようにご説明さしあげていますが、正確には、「フィラリア駆虫薬」なのである。つまり、「蚊に刺されないようにする薬」でもないし、「効果が持続して、効いている時はずっと、フィラリアが体に入れない薬」でもない。何かと言うと、「飲んだ時だけ、体の中にいるフィラリアを殺す薬」なのである。

別にフィラリアは教育されなくてもいいんだけどネ…
 こういうと語弊があるので、詳しく説明しよう。フィラリアを運んで来た蚊に、ワンちゃんが刺されると、ワンちゃんの体の中に、子供のフィラリアが植え付けられる。この子供のフィラリアは、最初、皮膚の下や筋肉の中で、約3ヶ月間成長を続ける。そして成長しながら心臓(特に右心室と呼ばれる所。千暁が痛がった所ネ。)や肺動脈(心臓から肺へいく太い血管)に到達し、さらに約3ヶ月経つと成虫となり、オスとメスで交尾して、ミクロフィラリアと呼ばれるフィラリアの赤ちゃんを産む。
このミクロフィラリアは血管を流れているのだが、そのまま成長して、また心臓に寄生するかというとそうではない。必ず一度、蚊に吸われて、蚊の体内で成長しないと、大人にはなれないのである。これが犬→犬の感染がない理由であり、言わば蚊は、「フィラリアの小中学校、義務教育の場」なのである。

炎のコラムも宜しく…
 話がそれたが…では、フィラリアの薬はどの時点のフィラリアに効いてくるかというと、皮膚の下や筋肉の中で成長している3ヶ月のうちの、「ほんの2ヶ月の間」のフィラリアを殺すことしかできない。では、8月1日に蚊に刺されたとすると、10月1日に薬を飲ませれば大丈夫、ギリギリだが、しっかり体の中のフィラリアは殺せる、次回は12月1日で良い。つまり2ヶ月に1回でいいかというと、そうではない。
それだとギリギリになるし、フィラリアの成長速度も必ずしも一定ではないので、当院では、1ヶ月に1回の飲み薬をお勧めしている。他にも、一度うてば、そこから少しずつ薬が出てきて、12ヶ月間、薬の効果が持続する注射も扱っている。が、これに関しては、色々問題も出てきているので(当院では出ていないが)、詳しくは当院ホーム・ページ、院長の炎のコラムの[43]フィラリア予防注射薬返品の山、を参考にして下さい。

 では、いつ飲めばいいのか?まず、何歳から飲み始めればいいのかは、病院によっても違うが、お母さんから離れたら、大体2ヶ月齢を過ぎたら、飲ませた方が良い。あとは、飲ませる季節。当然、蚊にうつされる病気なので、蚊の出るシーズン、と思うでしょ?ちょっと甘いな…。まず飲み始めは、蚊が出現し始めてから1ヶ月後。蚊が出てすぐ飲んだって、殺すべきフィラリアの子供は、まだワンちゃんの体内に入っていないんだから。入ってから飲まないと意味ないでしょ?また、飲み終わりも、蚊がいなくなってから1ヶ月後が最後。例えば10月31日に蚊がいなくなったとする。その時に薬を飲ませて、はい終了、としてしまうと、もしかしたら気紛れな蚊が残っていて、11月1日に刺しに来るかもしれない。そしたら意味ないでしょ?だから、ギリギリにしないで、11月1日に刺されてもいいように、12月1日に飲んで、体の中のフィラリアの子供を全部殺して、そのシーズンは終了とする。ちなみに、わがノア動物病院では、蚊のシーズンを4〜11月と想定して室外飼育の子は5〜12月の予防、室内飼育の子は、蚊と遭遇する機会が少ないので、6〜11月の予防をお勧めしている。(関東地方はほとんどこんなもんだと思いますが、病院によって異なるので要確認です)
検査もすぐに終わりますからネ!!
 また、大きくなってから初めてフィラリア予防をする子や、前年に1ヶ月分でも飲み忘れのある子、前年はしっかり予防していたが、別の病院で予防していたという子は、当院では必ず、血液検査をしてからお薬を処方させて頂いている。血液検査は、心臓に寄生している「フィラリアの成虫」と、血管をめぐっているフィラリアの赤ちゃん、「ミクロフィラリア」の両方を観る検査となる。なぜなら、フィラリアの成虫はいるけど、赤ちゃんが出ていない、という時があるからである(オカルト感染という)。だって、成虫がオスだけ、とかメスだけ、とか、メスが「子供を産めない体なの…」ってことがあるでしょ?(いや、本当にあるのよ)。
だから、そういう感染を見落とさないように、しっかり二種類の検査をする。で、親も赤ちゃんも両方陰性、いませんよ、ってことになったら、すぐにフィラリア予防を開始して頂く。検査はその場で約15分位で終わりますから…。「別の病院でしっかりやってたから、検査なんかいらないじゃん…」なんて、どうか思わないで下さいネ。世間には色々な動物病院があります。「他でフィラリア予防はしてます」っておっしゃっても、フィラリア症で運ばれてくるワンちゃんも、年に数件、実際に経験しておりますので。そんな子に(フィラリア症にかかっている子に)フィラリアの薬を飲ませると、ショックで死んでしまうワンちゃんもいるのである。だから、どうしても「検査なしで薬だけくれ」とおっしゃる飼い主様には、残念ですが、他の病院へ行って頂いております。そのような方は、そうそういらっしゃらないですけどネ。

大手術になることもあるんですよ…
 薬の種類も、当院では、錠剤、粉剤、ジャーキー・タイプ、注射と各種取り揃えているので、薬の飲めない子等にも対応できるし、錠剤でも何タイプか取り揃えている。中には、コリー系のワンちゃんが飲んではいけない薬などもあるので、その子に違う種類のお薬をご用意するためである。なぜ、ここまでキッチリ予防するのか?それは、フィラリア症が、薬で100%確実に予防できる病気だからである。10年前は、フィラリア症は不治の病と言われていたが、現在はかなりの確率で治癒が可能である。しかし、後遺症があったり、治療にかなりの時間とお金がかかる。飼い主様の懐も痛むが、一番痛いのは、苦しむのは、ワンちゃんなのである。


教訓:一
100%予防できるんだから、わざわざワンちゃんを苦しめることをせず、しっかりフィラリアからワンちゃんを守ってあげるべし!!
教訓:二
10kgサイズのワンちゃんが、しっかりフィラリア予防して、15年生きたとしても、かかる費用は高々、20万円ちょっと(当院では)。10万円かけて治療して、後遺症で10年しか生きないのと、どっちが幸せか、よーく考えるべし!!


次回、レオに、レオにダニがー…乞う御期待!!(いや、ダニを期待している訳ではない)


獣医師:斉藤大志



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