第五章:ワンちゃんを病気から守るには
5-1:ワクチン

登場人物
涼子(23):某製薬会社の人気受付嬢。
      最近、メスのM・ダックス、レオちゃんを飼い始め、
      その勢いで、ダックス好きのサークルに入会した。
千暁(25):トリマーさん。ダックス好きのサークルで、涼子と知り合う。
      体重10kgにも及ぶダックスを、「ミニチュアです」と言い張り、
      会員の中で一人、JKCにケンカを売っている。


ある平日のお昼休み、たまたま時間の合った涼子と千暁は、喫茶店で一緒にランチをとっていた。店内のBGMは、今流行りの('02年9月現在)、平井堅さんの「大きな古時計」であった。余談だが、平井堅さんはこれからも童謡をカバーしていく予定らしい。ということは、毎年大晦日の紅白では、由紀さおりVS平井堅の「童謡対決」が観られるのだろうか?と、密かに期待している作者であった。ある意味、ド派手衣装対決より興味ある…。



涼子「うちのレオさー、今度二回目のワクチンなのネ。でもさー、最初のワクチンうった後、ちょっと体調崩しちゃってさ。今回は大丈夫かなー?千暁んチのは何ともない?」
千暁「うちのはそんな風になったことないけど…。でも、ワクチンうった後に、アレルギーで顔が腫れたりする子がいるってのは聞いたことあるけどネー。」
涼子「ほかにはどんな症状が出るの?」
千暁「ワクチンの注射をうった跡が腫脹するとか、痛がるとかあるらしいよ。」
涼子「腫脹って?」
千暁「腫れて大きくなること。」
涼子「あー、だから千暁んチのダックスは、あんなに大きくなっちゃったんだ…。あれはワクチンの副作用で腫れたものだったのネ。」
千暁「…だから、なったことないってば。」

※まぁまぁ…ほら、「大は小を兼ねる」とも言うし(フォローになってない)。ちなみに、JKC(ジャパン・ケンネル・クラブ)の犬種標準書によると、ダックスのミニチュアとスタンダードを分けるのはサイズだけで、スタンダードのダックスは、オスの体重は7kg以上、メスの体重は6.5kg以上で、理想は9〜12kg。ミニチュアは、オス・メス共に4.8kgが上限とされている…だってさ(むしろ追い詰めてる?)。
 さて、今回からワンちゃんの予防医学の章に入るが、まずはワクチンについてである。いきなり「ワクチン」と言われても、「じゃぁ、ワクチンって何?」って言われると、うまく説明できない飼い主様も多いのではないでしょうか?ただ獣医師に勧められるままにやるのではなく、ここでキッチリお勉強していって下さいな。


 人間でも、例えばインフルエンザのように、ウイルスという小さな病原体が感染すると、せき、くしゃみ、発熱といった、様々な症状が現れるが、それと同時に、体の中では「免疫」と呼ばれるシステムが働き、その病原体を倒そうとする。「疫」とは病気のことで、免疫とは、病気から免れる、病気に打ち勝つための力のことを言う。その免疫システムの一つが、「抗体」を作ることである。抗体とは、病原体を倒すために、体が作り出す武器のことで、病原体によってその武器の形は異なる。例えば、怪獣を倒すにはスペシウム光線だし(分かりやすい)、フリーザには元気玉(ん?)、銭形警部には斬鉄剣(そうか?)、バッファローマンにはキン肉バスター(おいおい…)、GK若林君にはドライブ・シュートである(意味不明)。さて、あなたはいくつ分かったでしょう?…要はですネ、病気に合った武器を、体が作り出してくれるということです。だって、怪獣にドライブ・シュートうっても意味ないでしょ?(いや、キャプテン翼なんだけどネ、サッカー漫画の)。で、抗体が体内で作られると、抗体は病原体を捕らえて殺し、体内 から排除してくれる。また、
病気は治療よりも予防ですネ…
この免疫システムの優秀な点は、一度体内に入ったことのある病原体を記憶する免疫細胞があるということである。その細胞が以前の記憶を持ってくれているおかげで、次に同じ病原体が体に入ってきても、「あっ、こいつにはこの武器だったな。」という感じで、初めての時よりも早く活動できるため、病原体が悪さをして症状がひどくなる前に、病原体を倒し、前回よりも早く回復することができるのである。ほら、ワン・シーズンに2回風邪をひいた時って、2回目の方が軽く感じるでしょ?あれがそうです。この「記憶」というシステムがないと、同じ病原体が入ってきても、また最初から、武器の設計図を書いて、見積もり出して(?)、材料そろえて…と、対応が非常に遅くなる。だから、この「記憶」というシステムはとっても重要で、当然、動物にも同じように備わっており、ワクチンは、こういった体の免疫システムを利用したものなのである。

 では、ワクチンとは何か?というと、「にせものの病原体」なのである。体に病原体の記憶を植え付けるのに最も効果的なのは、本物の病原体である。でも、これが体内
「記憶」が大事!!…身体って賢いネ。
に入ると病気になってしまう。だから、体に害は及ぼさないが、武器を作るための記憶を植え付けるには十分な程度の病原体、つまりワクチンを体に入れるのである。例えば、チョキの所がないバルタン星人って恐くないでしょ?あんまり(若い人には分からないかな…昔、ウルトラマンの敵で、手の形がチョキの怪獣が出てきたのよ)。それにチョキだけでも恐くないし。ただ、その「害のないバルタン星人」が地球に来て、ウルトラマンに倒されるのを、地球の人が「記憶」すれば、本物のバルタン星人がきた時、迷わずウルトラマンを呼べるでしょ?間違って仮面ライダーとか呼んでたら、そのすきに地球、破壊されちゃうし。つまり、ワクチンとは、「害のないバルタン星人」なのである。



なんか例えが分かりづらいかもしれませんが…とりあえず、先に進みましょう。次は、ワクチンを接種する時期である。これはワクチネーション・プログラムと呼ばれ、動物病院によって、お勧めする接種時期がかなり異なる場合がある。今回は、当院ホーム・ページの医療情報、ワクチネーション・プログラムに掲載されている方法をご紹介しましょう。当院では、生後2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月と、子犬の頃は1ヶ月置きに3回接種し、その後は、年に1回の追加接種を勧めているが、これらにはそれぞれ重要な意義がある。
 まず、なぜ生後2ヶ月で接種するのか?これは言うなれば「捨てうち」である。ワンちゃんは、生まれてすぐは母乳を飲んで育つが、生後約2日目までの母乳は「初乳」と呼ばれ、その中には、母犬が元々持っていた、様々な病原体に対する武器、つまり「移行抗体」が大量に含まれている。これを飲んでいれば、ある程度の病原体からは防御されるが、この移行抗体は徐々に減っていき、生後45日位でなくなってしまうと されている。この移行抗体が残っているうちにワクチンをうっても、あまり効果はない。
注射も痛いけど、病気になるともっと痛いんだよ。
なぜなら、ウルトラマンが地球にいるうちに、害のないバルタン星人が襲ってきても、すぐにウルトラマンが倒してしまうから、地球の人の記憶に残らないでしょ?ほら、夜とかに来たら、そのシーン見逃すし(そういう問題かな…)。なので、ワクチンは、移行抗体がなくなる45日齢以降にうつのが良い。しかし、この移行抗体、皆が皆、45日齢でなくなる訳ではなく、かなり個体差がある。つまり、2ヶ月齢でのワクチン接種は、「もしかしたら、まだ移行抗体が残っていて、無駄になるかもしれないけど、もし残っていなかったら、何も武器がないんだからマズいよネ。」という意味の、いわば保険なのである。

 次に、3ヶ月齢での接種の意義だが、これが本当の意味での「初回接種」なのである。この頃には、確実に移行抗体は消失しているので、前回のが捨てうちだった場合、ワクチンとして初めて機能するのは、ここからである。
 次に、4ヶ月齢での接種だが、これは「ブースター効果」を狙ったものである。ブースターとは、「後ろから押すもの」の意味で、ロケットの推進補助装置もそう呼ばれる。子犬の免疫力は不安定で、一回のワクチン接種では、完全に免疫力を高めることができない。そこで、ワクチンを追加接種することにより、病原体を記憶している免疫細胞を刺激し、より多くの抗体を体内で作らせることができる。ロケットも地球から離れる時、
眠ったままの記憶…困ります。
一回の噴射では落ちてしまうので、何回も噴射を繰り返して、やっと宇宙に行けるでしょ?それと似ている。その後の、年に一回の追加接種も、ブースター効果を狙ったもので、忘れられた病原体の記憶を呼び覚ますためのものである。一年も経つと、記憶なんてあいまいなものですから…バルタン星人が来ても、「あれ?デカい伊勢エビかな?」と思ってウルトラマンを呼ばなくなってしまうもんなんです(しつこい?)。
 このような理由からワクチネーション・プログラムは構成されており、これを元に考えれば、3ヶ月齢以上で初めてワクチンをうちに来たワンちゃんには、「初回接種」と、3週間〜一ヶ月後の「ブースター投与」、さらに年に一回のブースター投与を勧める。また、かなり大人になってから初めてワクチンをうちにきたワンちゃんには、免疫力が安定しているということで、年に一回のブースター投与だけを勧めることもある
(院長は、昔、どうしたら完璧に伝染病を予防できるか?を考えてワクチン接種プログラムを考えた。その結果は初年度8回打ちだったらしい。お金に余裕のある人はいいかも…?)。
 あとはワクチンの種類。一言でワクチンと言っても、伝染病の種類はたくさんあるので、当然、ワクチンの種類もたくさんあるし、いまだワクチンが開発されていない伝染病も数多くある。それらを全部ワンちゃんにうっていたら、ワンちゃんの背中が穴だらけになってしまう。ということで、現在使用されているワクチンは、何種類かの伝染病のワクチンを混ぜた「混合ワクチン」と「狂犬病のワクチン」となっている。混合ワクチンにも、5種混合、7種混合、8種混合、9種混合など色々あり、今後も増えることが予想されるが、当院では、ジステンパー、犬伝染性肝炎、犬パルボウイルス感染症、犬コロナウイルス感染症、犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ。2種類の病原ウイルスあり)、レプトスピラ症(2種類の病原菌あり)の計8種類の病原体からワンちゃんを守る、8種混合ワクチンを使用している('02年9月現在)。また、狂犬病のワクチンに関しては、生後90日齢以上のワンちゃんは、
この記事…ふざけてるけど勉強になるでしょ?
年度に一回、必ず接種するよう、法律で義務づけられている。「狂犬病なんて日本にないから別にいいじゃん」と考えているそこの人。それは間違い。狂犬病は、日本には現在はないとされているが、まだまだ世界中に存在し、人間や他の哺乳類にもうつる、恐ろしい伝染病なのである。だから、日本で狂犬病のワクチンが義務付けられているのは、「絶対に日本の外から狂犬病を持ち込ませないぞ」という意味合いが強い。日本の犬が皆、狂犬病から守られていれば、もし日本にウイルスが入ってきても広まらないもんネ。まぁ、狂犬病を含め、上に記した病気に関しては、医療情報コーナーに全て掲載済みなので、そっちでお勉強して下さいな。

 で、最後にワクチンの副作用について。今回は長いネー。もう一息、頑張ろう。ワクチンをうつ時は、当然、その前に獣医師が診察し、体調に問題がないか、確認し、問題なければそのまま接種、となる。ただし、健康な場合でも、ワクチン接種後は、少々熱っぽくなったり、少し元気が落ちたり、注射した所が赤くなったり、腫れたり、痛くなったりする、というのが、1〜2日見られる場合がある。しかしこれは、ワクチンという「異物」に対して、体の免疫システムが正常に反応しているだけなので、あまり心配ない。それより重い症状が出ることは普通はないし、時間が経てば、症状も消える。
あいたたた…注射後は安静にネ。
しかし、ごくまれに、ワクチンに対して過剰に反応してしまい(アレルギー)、顔面が腫れたり(ムーン・フェイス)、吐いたりなどの症状が出る時がある。その場合は、早めに獣医師に連絡をとり、必要な処置をとらなければならない。放っておくと、命に関わる程の重い症状になることもあるからである。また、そのようなことが起こった場合、今後のワクチンに関しては、種類を替える、ワクチンをうたないなど、獣医師と相談する必要がある。



 最後にちょこっとFAQを…。

Q.ワクチンうった後、どれくらいしたらシャンプーしていいの?
A.当院では、ワクチン接種後3日間は、シャンプーや激しい運動は避けて頂いております。なぜなら、ストレスがかかると、免疫システムが抑制され、せっかくワクチンをうっても抗体が増えないからです。

Q.最初のシャンプーやお散歩はいつから始めていいの?
A.当院では、理想を言えば、2、3、4ヶ月齢でワクチン接種し、さらに3日あけてからだと、完全に免疫力が上がっていますので、宜しいかと思われます。ただし、どうしても、と言われる場合は、2、3ヶ月齢でワクチン接種した後、さらに3日あけてから、という時期でも許可を出す場合もあります。また、3ヶ月齢以上で初めてワクチン接種した場合は、2回目のワクチン接種後、さらに3日あけてから、ということにしております。

教訓:
一、これだけ長々と書くってことは、それだけワクチンが重要!!ってこと。定期的なワクチン接種によって、恐〜い伝染病からワンちゃんを守ってあげるという、最高の愛情を注ぐべし!!


次回は、これも恐いネ、フィラリア予防に関してです。

獣医師:斉藤大志



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