第四章:ワンちゃんの成長日記
4-1:お目めが開いた!!

登場人物
恵子(19):第一章の登場人物。拓也と半同棲していたが、
      愛想をつかせて、アパートを出た(スゴい展開!!)。
      現在、智子とルーム・メイトとして同居中。
      カリスマ・トリマーを目指し、現在、
      専門学校とバイトで、忙しい日々を送っている。
智子(23):第二章の登場人物。長崎から上京したOL一年生。
      ワンちゃんと思って拾った動物が、実は猫ちゃんだったという、
      ちょっとお間抜けなコ。現在、その猫(小志)&恵子と同居中。。



ある昼下がり、専門学校から帰ってきた恵子は、アルバイト雑誌を広げて、次のバイト先を探していた。ちなみに、前回やっていたウェイトレスのバイトは、1日で割った皿の数が天文学的な数値を叩き出したため、即クビになってしまった。

恵子「あー、なんかいいバイトないかなー。あっ、これいいじゃん。
   ボーリング。暇な時、投げられるんでしょー。カッコーンって。」

ちなみにボーリングは、地面に穴を掘るお仕事であって、玉を転がすのはボウリングである。と、その時、ルーム・メイトの智子が、息をきらして帰ってきた。




智子「恵子ー!!今度こそ、今度こそ、運命の出会いよー。ワンちゃん、拾ったー!!」
恵子「Aー。また猫なんじゃないのー。あれっ、ダックスじゃん、この子。」
智子「そう!!れっきとした野良ダックスよ!!」
恵子「…。でも、なんか目が白くない?目にお乳でも入ったのかな?」
智子「違うわよ、バカねー。カルピスに決まってんでしょ。」
恵子「…どうやって見分けんのよ。」

※舐めるんじゃん?、なんて真面目に取り合ってる暇はございません。二人とも間違い。
 子犬は目を閉じて生まれてくる。その後、生後10〜14日くらいで、やっとお外の世界と「こんにちは」する。ちょっとポエムで分かりづらい表現ですな。上下のまぶたが離れて、目が開くのである。この時、目は開いているだけで、最初はよく見えていないらしい。また、この段階では、角膜(眼球の表面の白目でない部分。目の真ん中の透明の膜。)はわずかにくもっているが、4週齢(生後4週間、ってこと)を過ぎる頃には消失し、普通に透明のものとなる。要するに、智子が拾ってきた野良ダックスは2〜4週齢ってこと。拾ってきたばかりの子犬って年齢不詳だけど、こんなところでおおよその年齢が分かったりする。あとは歯の生え具合だけど、それは後述。
眼やにだったらお掃除お掃除…

 この頃の子犬を拾ったあなた。これはラッキーである。物心つく前から育てられるんだから。でも…メチャクチャ大変である。なぜなら、人工哺乳と温度管理につきっきりにならなければならないから。母犬がいれば、哺乳も温度管理も母犬がやってくれるからいいけど、そうでない時は人間がフォローするしかない。
 まずは哺乳。正常な新生子は誕生後の最初の5日間は2〜4時間おきに母乳を飲むので、これに従って人工哺乳する必要がある。市販の粉ミルク(当然ワンちゃん用)を体重や日齢(生後何日かってこと。ちゃんと缶に書いてあるはず。)に合わせた量取り、お湯に溶かして人肌まで冷まし(冷め過ぎると飲まないよ)、飲む力の強い子は哺乳ビンであげ、弱い子はスポイトであげ、全然吸わない子は、動物病院で口から胃にチューブを入れて、無理矢理にでも少しずつ飲ませてあげる。正常であれば、この頃の体重は1日に5〜10%の割合で増加する(毎日、要チェックや!!)。300gの体重が、翌日には315〜330gになっているはずである。このペースで大きくなると、普通なら、生後一週間で、体重は約2倍になる計算である。
順調に太り過ぎ…

 1匹なら、その子だけ見ていればいいが、母犬が5頭も6頭も生んだ場合はどうするか?子犬は大きくなるにつれて体力差が出てきて、大きくて強い子がいつもたくさん乳を飲み、小さくて弱い子犬はますます弱っていくので、あまり大きさに差が出ないように、弱い子犬がたくさん乳を飲めるように手伝ってやるようにする。乳は一番下側にある乳房が一番よく出るので、気を配って、弱い子犬をなるべくそれにつけてやるようにする。子犬はお腹いっぱい乳を飲むとすぐに眠ってしまうものだが、キューキューと鳴いて落ち着かない時は、お腹が空いているのだから、母乳不足が考えられ、ミルクを補って飲ませてやらなければならない。
 当然、飲むだけではなく、それに合わせて出してもらわないと困る。通常、母犬は食後に、ウンチやオシッコを刺激するために子供の肛門や外陰部を舐めるので、人工哺育の場合は、この刺激を、お湯で湿らせた柔らかい布や脱脂綿を使って代わりに与え、哺乳の度にオシッコ&ウンチをさせなければならない(ウンチは毎回は出ないかも)。まぁ、食前でも食後でもいいんですけど…ねぇ、ほら、すっきりしてからおいしいもん食べたいじゃないですか。だから食前にするのがお勧め。また、自分でするようになれば(約3週齢頃)、管理は楽だけど、今度はそこら中でしちゃうから、床替えが大変。悩みは尽きませんな。まぁ、可愛いからいいんだけどネ。
あー、すっきり。

 こんな大変なことを、離乳する3週齢位まで続ける。大変ですよ。まぁ、この頃が一番可愛いんだけどネ(しつこい?)。あとは温度管理。低体温は新生子の死亡の主な原因になるので、常にホット・カーペットやカイロで温めておく必要がある。生後数日は25〜30℃の環境作りが必要となる。夏でも油断しないように!!また、母犬がいる時は少し難しい。なぜなら、母犬にとっては、その温度は暑すぎるからである。その場合、哺育箱の半分だけ温めて、母犬だけ涼しい所に逃げられるようにしておくとよい。
 そんなこんなで3週間位すると、今度は離乳に入るので、結構楽になる。それまでは…恵子も智子も、目の下にクマさん作って頑張りなさい。協力してやらないと辛いと思うよ。ツラいだよ。カラいじゃないよ。

 ここで、ついでに、ワンちゃんの目の構造について、軽く触れておきましょう。結構、人間とワンちゃんの目は違った構造をしているので、初めてじっくり観た人は、「何これ、病気?」と思ってしまうかも知れない。
よーく観てみて!!僕の目。

 特徴的なものの一つは、瞬膜である。第三眼瞼(がんけん。まぶたのこと。)、つまり、「3つ目のまぶた」とも呼ばれるもので、普段は目頭の下の方に収納されているが、時々、まばたきの時に現れる。見た目は白い膜で、上のまぶたの目尻の方を軽く押すと出てくるので、獣医師は健康チェックの時に使用している。また、瞬膜が出っ放しの時もある。その場合、瞬膜が全身状態の悪化を示している場合があるので、早めに動物病院で診察を受けた方がよいと思われる。
 二つ目は、輝板(きばん)である。タペタムとも呼ばれるもので、網膜に位置する。網膜ってのは、眼球の内側の一番奥にあるもので、そこにビッシリと光を感じる細胞が並んでいる。人間は、光が目の中に入ると、一回だけ、その光を細胞が感じるだけであるが、ワンちゃんの場合は違う。そのタペタムで反射した光も感じることができる。つまり、光が一回入ってきただけでも、二度おいしいということである(よく分からん)。つまり、かすかな光が入っただけでも、それを増幅して、より鮮明に光を感じることができる。これは元々夜行性だった頃の名残りだと思われる。夜にワンちゃんの目を見ると、緑色に光っていることがあるが、あれは別に殺人ビームを出している訳ではない。かすかな光がタペタムで反射して、あのように見えるのである。あー、勉強になりました。

教訓:
一、ワンちゃんは、生後3週間までの管理が一番大変であることを認識すべし!!


次回、野良ダックスに歯が生える。そろそろ離乳ですネ…。


獣医師:斉藤大志



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