第二章:ワンちゃんの入手方法
2−4:拾う!?

登場人物
智子(23):OL一年生。長崎から上京し、現在、一人暮らし。
      家族から離れて暮らす寂しさを癒すために、
      生まれて初めて、ワンちゃんを飼おうと検討中。


 なかなか理想の子犬が見つからない智子は、ちょっといらついた毎日を過ごしていた。いつしか不眠症となり、仕方なく見ていた深夜のテレビ番組の通販で、ご飯は全く食べずにそれだけ飲んでいれば、3日で5kgやせる!!というジュースを発見してしまい、早速購入して試してしまったので、それもいらつきに拍車をかけていたのかもしれない。こんな時はネ…何かしでかすんですよ、何か。

智子「は〜、どこかに一目ぼれしちゃうような子犬はいないかな…。
   まだ目も開いていないような赤ちゃんで、
   初めて目を開けたとき、初めて目にするのが
   私だったりして…キャーーーーーーーーーー!!。理想だわ。」

ちょっとイッちゃってますな。しかし、その時である。突き刺さるような視線を感じ、智子が振り返ると、そこにはなんと、「赤ちゃんあげます」の紙切れと共に、確かに目も開いていない、動物の赤ちゃんが1匹…ミューミュー鳴きながら、段ボールに入れられて、捨てられていた。目も開いてないのに突き刺さるような視線?と突っ込まないように、そこ。

智子「これよ…これだわ…(智子の目の中には星マーク)。運命の出会いよ…。 」

早速その子を連れて帰り、二人で夢のような毎日を過ごしていた智子だったが、ある時、とんでもない事に気が付いた。

「ニャー、ニャー」…子犬だと思ったら、子猫だった。チャンチャンッ♪


※こんな落ち、あり得ない思われるかもしれないが、ないことはない話である。犬でも猫でも、生まれたばかりだと、ただの毛むくじゃらのネズミのような感じなので、動物の赤ちゃんを見たことがない人だったら、間違えてしまうかもしれない。まぁ、大抵は大きさとか鳴き方で分かるが、小型犬の赤ちゃんだったら、見た目は大して変わらないので、要注意である。もし不安だったら、お腹の所を見てみて下さいな。もし、おへそと肛門の間におちんちんがあったら、それは男の子のワンちゃんである。猫ちゃんのおちんちんは肛門の近くにあるからネ。それ以外は…ちょっと区別が付かない。玉たまは、生まれたての頃は、まだお腹の中にあって、生後、徐々に肛門近くの袋の中に下りてくるので、生後間もなくだったら、オスメスもホント見分けはつきません。心配だったら、お近くの動物病院へどうぞ。オスメスの区別はつかないことはありますが、さすがに犬ネコくらいは分かりますので。


もし、智子のように犬ネコ間違えて飼っていたら、気付いたときショックがデカい、ということ以外にも、色々困ったことが出てくる。例を挙げると、食事の問題。生まれてすぐに母親から離された動物は、当然、母乳を飲めない訳だから、人間の手でミルクをあげないといけない。牛乳で育てようと思われる方も多いと思うが、牛乳には、乳糖と呼ばれる糖分が入っていて、大抵のワンちゃん猫ちゃんはそれを栄養分として分解して利用することができず、下痢をしてしまう。その事実は、成長しても変わらないし、牛乳を温めたり、薄めたりしても変わらないので、要注意である。時々、乳糖を分解できる子もいるが、やめておいたほうが無難である。子犬子猫が下痢をすると、急激に脱水状態になり、下手をすると死んでしまうこともあるからである。では、どうすれば良いか?含まれる乳糖が少ない牛乳を与える。う〜ん、そんな牛乳も市販されているが、一番良いのは、ペット・ショップなどで売っている粉ミルクである。それらをお湯で溶いて、人肌程度まで冷して、哺乳びん(当然、犬ネコ用)で与える。最初はうまく飲めない子もいるので、ダメならスポイトなどで与える。で、これを2〜3時間置きに行う。これはマジでつらいっスよ。1日ならまだいいけど、それが離乳するまで続くんだから。少なくとも2週間はかかるので、それまでは、栄養ドリンク片手に、目を血走らせながら頑張るしかない。まぁ、一人でやるから大変なだけで、家族とか友達に協力してもらえれば、そんなに大変ではないかもしれない い。で、その粉ミルクだが、これが問題。お店にいけば分かるが、ちゃんと犬用、猫用がある。赤ちゃん用だから、どちらにしろ栄養タップリの飲み物なんじゃないの?と思われるかもしれないが、微妙に成分が異なる。犬と猫が要求する栄養分で、一番大きい違いは、タンパク質である。ワンちゃんは雑食性の強い肉食、猫ちゃんは純粋な肉食、ということで、猫ちゃんのほうがワンちゃんよりも2倍近く、多くのタンパク質を必要とする。だから、犬に猫用ミルクをあげるのはまだ良いが、猫に犬用ミルクをあげるのはちょっと問題あり。智子の場合は、子犬と思って子猫を育てていたので、もろに後者である。まぁ、智子の場合、気付いた後は、ちゃんとミルクも変更したし、「なんだ、猫かー。いーらない。」って、また捨てるようなことはしなかったので、頭をなでてあげたい。

このように、動物を拾った時は、その後育てるのも大変だが、まずは生きていてもらわないとならない。捨てられてから時間が経っていると、子犬の場合、かなり衰弱している可能性がある。ミルクを飲んでいないというのもあるし、子犬だと体温調節を上手くできないので、低体温のショック状態にあることもある。だから保護したらなるべく早く、ペットヒーターやカイロなどで保温してあげないとだめ。かと言って、直接、子犬にくっ付けると低温ヤケドになるので、タオルなどで子犬をくるんで、その周りにヒーターを置いてあげると良い。ワンちゃんは「熱っ!!」とか言ってくれないですからネ。

それと病気の管理も大変である。まずは伝染病。赤ちゃんは当然だが、成犬でもワクチンをうっていなければ、伝染病にかかる可能性も高いので、早めにワクチン接種を行った方が良い。また、すでに伝染病にかかっている可能性もあるので、ちゃんと健康診断してから、できれば保護して数日あけて、何か変わった症状が出ないか確認してから、ワクチンをうったほうが良い。当院では、子犬のワクチン接種は、2ヶ月目で1回、その後、1ヶ月置きに計3回行うので、乳歯が生えてから1ヶ月位たってから来院されると良いと思う。まぁ、病院によって、その辺は少しずつ違いますけどネ。成犬なら年に1回の追加接種でOKである。

あとは、外部寄生虫、及び、消化管内寄生虫である。外部寄生虫としては、耳ダニ、ノミ、マダニ、疥癬、あとは虫ではないが、カビの感染などが見られることがある。消化管内寄生虫としては、回虫、鉤虫、鞭虫、条虫、コクシジウムなどが見られることがある。いずれも、動物病院での身体検査、皮膚をひっかいて採れた物を顕微鏡で観る検査、糞便検査などで、分かる場合が多いので、保護した後は、なるべく早めに健康診断を受けた方が良い。その子の親がかかっていた病気や、成犬だったらその子の生活環境など、分からないことだらけなので、動物病院でも、電話相談だけだとあまりアドバイスできないが、来院して頂ければ、それなりの検査はできる。例えば、河原に生後半年位のワンちゃんが捨てられていたとしよう。保護した後、軟便が続いている。それだけの情報では、動物病院も何の病気なのか分からないし、病気かどうかも分からない。ただのストレスかもしれないし。でも、来院して頂いて、糞便検査をしたら、マンソン裂頭条虫の虫卵が出た。これは、カエルやヘビを食べることでうつることの多い、消化管内寄生虫の一種である。それが分かれば、駆虫薬を出すこともできるし、その子が今まで、河原でカエルとかを食べて生きてきた、ということも分かる。確かに動物病院に行くと金がかかるというイメージはあるが、そうしないと治らない病気もあるので、御気軽に相談、来院して下さいな。

教訓:
一、ワンちゃんを拾った時は、子犬でも成犬でも、早めに健康診断を受け るべし!!どんな病気持ってるか分かりませんよー。


次回からは、新しいワンちゃんを家に迎え入れる際の注意点を勉強します。

獣医師:斉藤大志



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