第十二章:ワンちゃんの老後

12-3:死


 この章からワンちゃんの老後のお話になるということで、非常に残念ですが、今までのような、おチャラけたコントはなし、ということでいきたいと思います。なぜなら、この章は、ワンちゃんの老後の変化にとまどう飼い主様、愛するワンちゃんに近づく死という現実を、どのように受け止めるべきかお悩みの飼い主様、長年連れ添ったワンちゃんが亡くなり、途方に暮れる飼い主様を、少しでも救って差し上げるため、少しでも心の支えになって差し上げるための章であると、作者が認識しているためです。
 ですから、今までとは少し雰囲気を変えて、味は出しつつも、真剣に一つ一つのテーマに取り組んでいこうと思います。ショート・コントを楽しみにして下さっている、マニアックな(?)飼い主様には申し訳ないのですが、皆さんも、ちょっと気持ちを切り替えて、真剣に読んでやって下さい。

※今回は、ワンちゃんと一緒に暮らしていく上で、必ず通らなければならない、「永遠のお別れ」についてである。
身近な人が亡くなったという訃報に接すると、人が悲しみを感じるように、ワンちゃんの場合も、亡くなった時の飼い主様の悲しみが、強く、そして長く持続することが分かっている(人によって様々かもしれないが)。
なぜ、そんなにも悲しみが強く現れるのか?それは、飼い主様とワンちゃんとの感情的なつながりが、親と子供のつながりに似ているからである。
大きいけど…子供みたいだよネ
色々な研究で、両親と子供の関係と、飼い主様とペットの関係との間に類似点が認められている。この事実は、飼い主様がワンちゃんに、子供のような身体的特徴(例えば、大きな頭とか大きな目とか)を望むことからも分かる(これも人によって様々だが…チワワが流行するのもそのせいかな?)。なので、ワンちゃんを失った悲しみが、子供を失った悲しみに匹敵する程、強くなるのもうなづけることなのである。
「できれば、ずっと一緒にいたい」「自分が死ぬまで、一緒に暮らしたい」…ワンちゃんに対して、そのように思われる飼い主様も多いが、動物達の寿命は人間の寿命よりもかなり短いため、動物と暮らし始めた人は、必ずいつか「お別れ」を経験する。そう、つらい現実ではあるが、「お別れ」に伴う、「深い悲しみ」は、必ず訪れるものなのである。

 今日、色々なメディアでもよく話題になる「ペット・ロス」という言葉がある。ペットを失う、つまりロスすることで、深い悲しみを感じるという、人間として極めて当たり前の感情を表現したものだが、極まれに、その悲しみから立ち直るのに、専門家の助けが必要になるケースもある。それ程、ペットの死は、飼い主様に精神的な動揺を与え、時にパニックを引き起こしてしまうものなのである。
ペット・ロスの症状と、それに対する対策に関しては、次回、詳しく書くとして、今回は、お別れに「至るまで」、つまり、どのようにワンちゃんの死を受け入れる準備をしていくか、いざその場面になったら、何をすべきかを考えていく。

 「もうすぐワンちゃんが亡くなってしまう」…このような場面に
いつ何があるか分かりません
遭遇するのは、交通事故を始めとする予期せぬ事故、中毒などによる突然の状態の変化、慢性疾患やガンの治療中など様々だが、いきなりそのような状況に置かれた場合、人間はどうなるだろうか?当然、ショック状態になり、パニックになり、なんとかその状況、つまり「ワンちゃんが亡くなる」という事実を否定しようとする。
そのような状況では、正常な思考回路は全く動かない。多くの家族は動揺してしまい、獣医師による、動物の状態、治療、予後などに関する説明を理解したり、今後の方針を決定したりする能力が極度に低下してしまう。
では、あらかじめ、どのような対策をとれば良いのだろうか?これに必要なのは、「数年前から、ペットの死に関して、よく考え、話し合っておくこと」である。「生きてるうちから?なんか
キチンと考えてあげて下さい
悲観的…」と思われるかもしれないが、これがいざという時に重要になるのである。事故や突然死の場合は難しいが、あらかじめ、ワンちゃんが亡くなる時のことを話し合って決めておくと、悲しみが最も深い時期に、間違った判断を下さなくて済む。「ワンちゃんをどこで看取りたいか?自宅か?病院か?」「どのレベルまでの治療を望むか?街の動物病院レベル?大学病院レベル?」「どのような状態になったら、病院での治療を止めて、自宅で安静にしたいか?」「安楽死は考えているか?それを選択しなければならない場合、同席するか?また、家族のうち、誰が同席するか?」「遺体はどのように処置したいか?自宅の庭に埋葬?ペット霊園?」などなど…考えておくべきことは多くある。
病気の治療中に、このようなことを考えるのは、気分が落ち込みそうなので嫌なことだとは思う。しかし、ワンちゃんが亡くなった時に後悔することを考えたら、もしその判断ミスが原因で重度のペット・ロスになってしまったらと考えたら…現実問題として、やっておかなければならないことだと思う。(
また、動物病院で働いている者としては、そのような話し合いの結果を、病院側に教えておいて頂くか、または一緒になって考えていくかすると、治療方針も決めやすいですし、「最後まで一緒に努力していきましょう!!」という気持ちも強くなりますので、宜しいかと思われます。

 「病院に任せて下さい」ではなく、「一緒に頑張っていきましょう」という治療としては、ホスピス医療なるものがある。ホスピスhospiceとは、人間の医療で見られるものであるが、医者の指示に基づき、看護士の協力を得ながら、末期医療の患者とその家族に、家庭的な雰囲気の中で、入院治療と同じ環境を提供する看護計画、のことである。難しいですネ…。簡単に言うと、「入院なんてストレスがかかるから嫌!!治らない病気なら、余命が分かっている病気なら、自宅で安静にしたい!!」という方に、自宅に戻って頂いて(自宅に近い環境で入所できる施設もある)、しかも、何もせずという形で見捨てるのではなく、
眠るように亡くなるのであれば…幸せですネ
痛みを和らげたり、症状を軽くする維持療法を加える、ということである。)
当院の治療にも、この考え方は活かされている。動物の病気を治癒できない場合には、治癒を前提とした治療を長期間行うことは正しくなく、また無意味である。「長生きすることと、生きる屍となるまで生きながらえることとは違う」のである。なので、治らない病気は、正直に「治らない」と飼い主様に申し上げますし、その事実を伝えた上で、今後の治療をずっと動物病院で行うか、自宅治療に切り替えるかを選択して頂きます。
自宅治療に切り替えたとしても、そのまま安静にではなく、ある程度、症状を緩和できる治療を、飼い主様にやって頂いております(場合によっては往診で)。ワンちゃんにストレスをかけたくないから、ということで、薬だけ取りに来られる飼い主様もいらっしゃいます。
「病気になったら、仕方がない。何度も病院に連れていくのも可哀想だから、少々苦しそうでも、自宅で看てあげよう。」「苦しそうだから、安楽死させてあげて下さい」…そのように、ワンちゃんのことを思って、十分に考えて頂いている飼い主様に、当院では、別の選択肢として、ホスピス医療というものがあることをお勧めします。亡くなる直前まで、ワンちゃんが少しでも楽になれるように、少しでも幸せでいられるように、考えてあげて下さい。なかには人間の身勝手ゆえの安楽死を求める方もいらっしゃいますが当院ではそのような場合はお断り致します。

ありがとうって…
言ってくれますよ、きっと
 このように、十分に準備してあげられれば、ワンちゃんも飼い主様も精神的にも肉体的にも安らかでいられれば、愛する家族であるワンちゃんが亡くなる瞬間も、その死が意味あるものであったと、納得できるかと思います。ワンちゃんが「亡くなった」という事実よりも、「生きた」という事実の方が大切であると思えるようになれば、ワンちゃんに関わった全員が、その思い出をいつまでも大切に持ち続けることができるでしょう。






教訓:
一、深い悲しみによって判断を誤らないように、ワンちゃんが亡くなった時のことを、前もって家族全員で話し合っておくべし!!
ニ、末期医療のワンちゃんに残された道として、ワンちゃん-飼い主様-動物病院が一丸となって努力できる、ホスピス医療を覚えておくべし!!


次回、どうぶつとくらすマニュアル、堂々の最終回。ペット・ロス対策です。



獣医師:斉藤大志



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