第十二章:ワンちゃんの老後

12-2:ワンちゃんの痴呆


 この章からワンちゃんの老後のお話になるということで、非常に残念ですが、今までのような、おチャラけたコントはなし、ということでいきたいと思います。なぜなら、この章は、ワンちゃんの老後の変化にとまどう飼い主様、愛するワンちゃんに近づく死という現実を、どのように受け止めるべきかお悩みの飼い主様、長年連れ添ったワンちゃんが亡くなり、途方に暮れる飼い主様を、少しでも救って差し上げるため、少しでも心の支えになって差し上げるための章であると、作者が認識しているためです。
 ですから、今までとは少し雰囲気を変えて、味は出しつつも、真剣に一つ一つのテーマに取り組んでいこうと思います。ショート・コントを楽しみにして下さっている、マニアックな(?)飼い主様には申し訳ないのですが、皆さんも、ちょっと気持ちを切り替えて、真剣に読んでやって下さい。

※さて、今回は、ワンちゃんの痴呆、いわゆる「ボケ」に関してである。
お年寄り?いいえ、
ポーリッシュ・ローランド・シープドッグです!!
「犬もボケるの?」と半信半疑の飼い主様もいらっしゃるかもしれませんが、これがまた、非常に多いのでございます。痴呆は現代病とも言えるものである。なぜなら、最近のワンちゃんは、寿命が非常に伸びたからである。最近は、ワンちゃんの予防医学、つまり、ワクチンやフィラリア予防も確実性を増し、それらに対する飼い主様の意識も非常に高くなってきたため、ワンちゃんも病気で亡くなることが少なくなり、ワンちゃんの世界でも、高齢化が進んできている。そうなると当然、老犬特有の病気がクローズ・アップされる。ガンが良い例である。が、痴呆もまたしかり、なのである。

気付いてあげて下さい、痴呆だってこと。
 痴呆の悪いところは、その症状が出ることで、飼い主様とワンちゃんとの距離が離れてしまう、絆が弱まってしまうことである。夜中にキャンキャンと鳴き出すワンちゃんに向かって、「○○ちゃん、静かにしなさい!!」と大声を張り上げたことはないですか?一ヶ所でグルグルと、何の考えもないような感じで回り続けるワンちゃんを見て、ため息をついたことはないですか?狭い所に入って出られなくなっているワンちゃんを見て、お尻を叩いて叱りつけたことはないですか?これらは皆、痴呆の症状であり、飼い主様が見ていて、不快に感じる行動もあるかもしれない。 そのような行動は、ワンちゃんと飼い主様との絆にヒビを入れる可能性がある。なので、これはもう立派な病気である。ワンちゃんの生活の質を下げる結果になる可能性があるのだから。

 では、どのように痴呆に立ち向かっていけば良いか?まずは、痴呆の症状を良く知ることである。それが分からないと、正常か痴呆か、病気か痴呆か、区別がつかない。「敵を知り、己を知り、血のりを知れば百戦危うからず」である。ん?ちょっと違うな…「地の利」ですネ。べっとり「血のり」を付けてどーする…。すいません、
スイマセンね、バカな作者で…
ショート・コントはなしのハズなのに。癖なんです。見逃して下さい。

 では、改めて、痴呆の症状を紹介しましょう。犬の痴呆の特徴は、動物エムイーリサーチセンターの内野富弥先生の作られた診断基準を参考にすると、非常に分かりやすい。最高点が100点のチェック方式で、痴呆が進行すればするほど、点数が高くなっていく。ちなみに、内野先生は、痴呆を、こう定義している。「学習によっていったん獲得した行動、及び、運動機能の著しい低下が持続し、飼育困難となった状態。」分かります?飼育困難ですよ。怖くなりますよネ…。
自分のワンちゃんを、痴呆を理由に、手放さなければならないこともありうるんですよ。ですから、このチェック問題も、真剣に取り組んでみて、現時点で、あなたのワンちゃんがどの位、痴呆の症状を持っているか、または予備軍なのか、正常なのか、見極めてみて下さい。

@食欲・下痢
食べないのに太るのも病気ですよ。
医療情報、甲状腺機能低下症参照。
正常なら1点。異常に食べるが下痢もするなら2点。異常に食べても、下痢をしたりしなかったりなら5点。異常に食べるが、ほとんど下痢をしないなら7点。異常に食べ、どんなものを食べても下痢をしないなら、最高点の9点である。
痴呆を疑う症状として、食欲旺盛で、普通にウンチしているのに、「やせてくる」というのがある。ダイエット中の方には、うらやましい限りですが…不健康にやせても意味ないですよネ。


A生活リズム
正常、つまり、昼は起きていて、夜は眠るなら1点。昼の動きが少なくなり、夜も昼も眠るなら2点。夜も昼も眠っていることが多くなったなら3点。昼のご飯時以外は死んだように眠り、夜中から明け方に突然動き回る。で、夜鳴きをする。飼い主様が鳴くのを止めさせようとすると、ある程度は止められるなら4点。止めさせられないなら最高点の5点である。
この鳴き方も、何か意味があるのではなく、単調で抑揚がない。この症状、飼い主様が動物病院へ持ってくる痴呆の症状のトップである。

B後退行動、つまり、あとずさりや方向転換
正常なら1点。狭いところに入りたがり、進めなくなると後退するなら3点。まったく後退できないなら6点。その状態プラス、部屋の直角コーナーでの転換が可能なら10点。 無理なら最高点の15点である。

C歩行状態
正常なら1点。一定方向にフラフラ歩くなら3点。一定方向にのみフラフラ歩きをし、大きく円を描くような運動をするなら5点。クルクルと小さい円を描きながら旋回運動をするなら7点。自分を中心において旋回運動になるなら、最高点の9である。やっぱネ…自己中心的な考えはいかんよ。エゴはネ。

D排泄状態
正常なら1点。排泄場所をときどき間違えるなら2点。所かまわずしちゃうなら3点。失禁するなら4点。寝ていても排泄してしまう、要は垂れ流し状態なら、最高点の5点である。

E感覚器異常
正常なら1点。視力が低下し、耳も遠くなっているなら2点。視力、聴力が明らかに低下し、何にでも鼻を近づけるなら3点。聴力がほとんど消失し、臭いを異常にかつ頻繁に嗅ぐなら4点。臭覚のみが異常に過敏になっているなら、最高点の6点である。
これは結構、判断が難しいですよネ…。老齢性の白内障にかかって、眼が真っ白だったら、当然、視覚よりも嗅覚に頼ったりするだろうし…。

F姿勢
正常なら1点。尾と頭部が下がっているが、ほぼ正常な起立姿勢をとれるなら2点。尾と頭部が下り、起立姿勢をとれるが、アンバランスでフラフラするなら3点。持続的にボーッと起立していることがあるなら5点。異常な姿勢で寝ていることがあるなら、最高点の7点である。

G鳴き声
正常なら1点。鳴き声が単調になるなら3点。鳴き声が単調で、大きな声を出すなら7点。真夜中から明け方の決まった時間に突然鳴き出すが、ある程度制止が可能なら8点。それプラス、あたかも何かがいるように鳴き出し、全く制止できないなら、なんと最高点の17点である。
これはAとちょっとかぶりますよネ。でも、ほら、分かります?最高点がメチャクチャ高いですよ。要するに、これにチェックが入るってことは、典型的な痴呆ってことなんでしょうネ。

H感情表出
正常なら1点。他人および動物に対して、何となく反応が鈍いなら3点。他人および動物に対して、反応しないなら5点。その状態で、飼い主にのみにかろうじて反応を示すなら10点。飼い主にも全く反応がないなら、悲しいですが、最高点の15点である。なんか切なくなりますネ。

I習得行動
正常なら1点。学習した行動、あるいは習慣的行動(要はしつけですネ)が一過性に消失するなら3点。部分的に持続消失しているなら6点。ほとんど消失しているなら10点。すべて消失しているなら、最高点の12点である。

さて、あなたのワンちゃんは何点だったでしょう?判定基準は、30点以下なら正常な老犬。おめでとーございます!!まぁ、老犬と一言で言っても、犬種によっても違いますけどネ(12-1参照)。基本的には、7歳過ぎたら、このチェックを一度お試しあれ。31〜49点なら痴呆予備犬。黄色信号ってやつですネ。で、50点以上なら痴呆犬、とされている。

 「ウチのは痴呆犬か…」とガックリきている飼い主様もいらっしゃると思いますが、まだまだ希望は捨てないで下さい。科学の力は、ワンちゃんの寿命を単に延ばしただけでなく、そこから生まれる問題点も、改善してくれようとしている。そう、つまり、痴呆も治療できなくはないのである。では、どのようにボケに立ち向かうか?ボケには、やはり
なんでやネンっ!!
「突っ込み」である。んな訳はない。痴呆の原因は、脳の変化によるものであるが、その原因はフリーラジカルだと言われている。つまり、体の中から出たり、環境汚染物質や紫外線よって産生されるもので、「体をサビさせる元」である。そのフリーラジカルから脳を守るのが、人間の世界でも注目されている「不飽和脂肪酸」、中でも、「オメガ-3脂肪酸」と言われるものである。「なんじゃそりゃ?」と言われる方もいらっしゃるでしょうが、DHA(ドコサヘキサエン酸)とかEPA(エイコサペンタエン酸)という言葉なら聞いたことがあるのでは?魚に多く含まれ、食べると頭が良くなる、とまで言われる、あれである。これがワンちゃんの痴呆の治療で、今、注目を浴びている。
オメガ-3脂肪酸を多く含む栄養補助食品や、ドッグ・フードも多く販売され、痴呆の治療、及び、予防に用いられている(当院でも積極的に使用している…そして結構効果があるのです)。特に、そのようなドッグ・フードに関しては、当然、高齢犬をターゲットにして栄養バランスを考えて作られているので、まぁ確かに、あまりおいしそうに食べるワンちゃんは多くないが、予防という意味では、7歳を過ぎたら、ずっと食べさせても良いかと思われる。
 夜鳴きなどがひどい場合、「先生、睡眠薬とかで、ちょっと眠らせてあげること、できないかしら?」とご相談される飼い主様をいらっしゃいますが、そのような薬はあまりお勧めできない。それらを使うと、確かにワンちゃんを眠らせることはできるが、脳が急速に傷み始める。夜鳴きを「治す」というよりも、「無理矢理抑え込む」だけのものである。それよりは、効果はすぐには出てこないが、脳を少しずつケアして治してくれる、オメガ-3脂肪酸をお勧めしたい。しかも、痴呆の症状が出てからではなく、出る前からコツコツと…。

教訓:
一、痴呆の症状を知り、正常と痴呆、病気と痴呆を見分け、適切な処置を講じるべし!!
ニ、痴呆になってからでは遅いと心得よ!!そうなる前から、「おめ〜がどこさ行くだ」みたいな名前の物を、予防の意味で使用していくべし!!


次回、ワンちゃんとの永遠のお別れに関してです…。避けては通れない、重いテーマです


獣医師:斉藤大志



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