第十二章:ワンちゃんの老後

12-1:老後の変化


 この章からワンちゃんの老後のお話になるということで、非常に残念ですが、今までのような、おチャラけたコントはなし、ということでいきたいと思います。なぜなら、この章は、ワンちゃんの老後の変化にとまどう飼い主様、愛するワンちゃんに近づく死という現実を、どのように受け止めるべきかお悩みの飼い主様、長年連れ添ったワンちゃんが亡くなり、途方に暮れる飼い主様を、少しでも救って差し上げるため、少しでも心の支えになって差し上げるための章であると、作者が認識しているためです。
 ですから、今までとは少し雰囲気を変えて、味は出しつつも、真剣に一つ一つのテーマに取り組んでいこうと思います。ショート・コントを楽しみにして下さっている、マニアックな(?)飼い主様には申し訳ないのですが、皆さんも、ちょっと気持ちを切り替えて、真剣に読んでやって下さい。

※今回は、人間同様に、ワンちゃんにも必ず訪れる、老後の変化に関してである。動物病院に勤務していて気が付くのは、やはり老後の変化に関する質問で一番多いのは、痴呆に関してである、ということである。夜鳴き、徘徊、しつけを忘れる…ワンちゃんと人間の生活が近ければ近い程、飼い主様は困惑し、人間とワンちゃんの絆を、自然と緩めてしまう結果になりかねない、重要な現象である。なので、これに関しては、12-2で、特別枠として扱いましょう。

 それではまず、老化というものが何なのか?ということから考えましょう。老化とは、体の内側からくるストレスや、環境からくるストレスにより、体が今の状態を保とうとする力が、徐々に(これ重要。老化は急にはやってこない!!)失われ、生活能力が低下し、病気にかかりやすくなり、最終的は死に至るという、複雑なステップである。高齢になってから病気になると、「もう年だから…。」とおっしゃる飼い主様は多いが、老化は病気ではない(これも重要!!)。年だから仕方がない、と諦めて検査、治療を行わないと、隠れた病気にむしばまれて、寿命を縮めることにもなりかねない。なので、高齢になってからの病気でも諦めず、健康診断の意味も兼ねて、キチンと検査、診断、治療を施すべし!!(まだ教訓ではないよ)。キッチリ検査しても、特に異常が見られないのであれば…そこで初めて「年なんだネ」って言ってあげてもよいでしょう。

 また、意外に知られていないのが、老化のスピードが色々なものに左右される、ということ。
こんなに可愛いのに…頑張って長生きしようネ!!
 例えば、遺伝。小型犬は、大型犬よりも長生きだし、雑種犬は、純血種よりも長生きである、というデータはある。ある文献では、体重別に、「老齢と思われる年齢」を決めているが、体重が
(小型)10kg以下のワンちゃんは、9〜13歳からが老齢、
(中型)11〜25kgのワンちゃんは、9〜11.5歳からが老齢、
(大型)26〜45kgのワンちゃんは、7.5〜10.5歳からが老齢、
(超大型)46kg以上のワンちゃんは、6〜9歳からが老齢、ということになっている。
アメリカのセント・バーナード協会が調べた、この犬種の平均寿命は6.5歳だそうである。これを見ると、超大型犬を飼う人が少なくなってしまいそうだが…まだまだ色々、老化を左右する因子はある。(

 例えば、栄養。太っちょのワンちゃんは、そうでないスマートな(健康的な、かな)ワンちゃんに比べると、寿命が短い。これは人間も同じですよね。また、高脂肪で低線維質な食事を採っていると寿命が短くなる、というデータがある。どうです?ワンちゃんに主食としてジャーキーをあげちゃっている飼い主様。いらっしゃいませんか?その行為は、自分でワンちゃんの首を絞めているのと同じことなんですよ。「家の子は、ジャーキーばかり食べているけど、やせてもいないし、大丈夫!!」なんて思っていませんか?見た目はちょっとふっくらしていて健康的でも、実は栄養失調ってこともあるんですよ。他にも、高齢のワンちゃんにあげる食事で気を付けなければならないのは、タンパク質、リン、ナトリウムが少なめになっていること。「そんな難しいこと分かるかっ!!」って飼い主様もご安心下さい。7-1でも紹介しましたが、今は高齢犬用ってドッグ・フードがございますです、はい。
 あとは、生活環境も、老化に与える影響が大である。屋外飼育のワンちゃんは、室内犬よりも寿命が短いし、田舎のワンちゃんは都会のワンちゃんよりも長生きすると思われる(山梨万歳!!)。また、環境と言えるか分からないが、避妊、去勢したワンちゃんも、してない子より長生きすると言われる。これらに関しては、まゆつばモンのデータもあるが、当たり前と言えば当たり前のような気もする。屋外飼育の方が伝染病などの病気にもなりやすいし、気温の高低などの環境からくるストレスも大きそうである。
都会は便利だけど…大変だよネ。色々と。
都会の方が空気も水も悪いから(都会の人、ごめんなさい)、今、人間でもよく言われる、フリー・ラジカルなどの「体をサビさせるもの」があふれていそうである。
 以上のように、ちょっと気を付けるだけで、可愛いワンちゃんの寿命を引き伸ばすことはできそうである。
セント・バーナードを小型犬の雑種に変えることはできないけど…田舎で(これも難しいよネ)、室内飼育で、避妊・去勢もし、年齢に合った適切な食事を摂らせ、やせ過ぎず太り過ぎずの健康的な体を作り、病気の予防もワクチンからフィラリアからキッチリ済ませ…あれ、これって今までこのマニュアルでやってきたことばかりですネ〜、奇遇だな〜。と、宣伝する訳ではないが、ある程度、飼い主様が気を配って頂ければ、解決できることばかりである。

 ただ、どう頑張ってみても、遅かれ早かれ、ワンちゃんは必ず年老いていく。では、年をとると、ワンちゃんの体にどのような変化が起きるのか、見ていきましょう。

・皮膚
分かりやすく言えば、元気のない皮膚になる。皮膚は常に再生しているが、その元気もなくなるので、弾力を失い、毛を作り出す細胞も元気がなくなるので、毛も薄くなり、色も薄くなる(白髪になる)。皮脂も少なくなるので、皮膚表面のあぶら分がなくなり、ツヤがなくなり、乾燥し、フケっぽくなる。
これは柄だって!!色素沈着じゃないって!!
色素沈着(黒い斑点などが出る)が見られることもある。鼻や肉球などの、元からちょっと硬い所が、角化亢進し、ひび割れる。…で終わりにすると、なんか暗くなってしまうので、解決策を少々。ちょっとフケっぽい子には、保湿スプレーを吹きかけてあげたり、蒸しタオルで保湿してあげると良いですよ。

・消化器(歯も含めるよ)
年をとれば、それだけ食事回数が多くなるということなので、自然と歯石が多くなる。と、歯周病が多くなる。すると、歯が抜けたり、歯茎がなくなってきたり、口臭がひどくなったり、口が痛くてヨダレを垂らしたり、食欲が落ちたり…と、命に関わってくる。なので、歯のお手入れは若いうちから適切に行いましょー。どうぶつのお手入れマニュアルもあることだし。
また、消化管全体がかたくなって(という表現が合ってるかな)機能が低下し、消化吸収能力が落ちる。肝臓の細胞も自然と壊れていき、肝機能は落ちるし、胆汁の量も減るので、脂肪を消化できなくなる。主に膵臓から出る消化酵素も少なくなるので、消化できなくなる。また、皮膚と同じで消化管の粘膜も常に再生しているが(ウンチの一部は消化管粘膜が落ちてきたものなんですヨ)、その元気もなくなるので、消化管全体が弱り、吸収もうまくいかなくなる。腸の運動も超落ちるので(シャレにならんです)、便秘にもなる。
じゃぁ、解決策は?高線維、低脂肪食に、薬として消化酵素を混ぜると良い。便秘だったら、ウンチを軟らかくする薬を使ってもいい。色々やってあげられることはありますよ。

・心血管系と呼吸器系
高齢のワンちゃんの多くは、心臓の病気をかかえることになる。この場合は、ある程度、薬に頼ることになるが、心臓に負担をかけないように塩分(ナトリウム)の少ない食事にするとか、軽度の運動制限(散歩をある程度控えるなど)は有効である。
また、血液を作っている骨髄(骨の真中にあるやつ)も、脂肪が多くなり、あまり働かなくなるので、ちょっと貧血になったりする。
肺も「かたく」なるので、酸素を体に取り入れる力も減るし、抵抗力も弱まるので、肺炎にもなりやすくなる。

・泌尿器系
腎臓の機能が、老化に伴って低下するのは、普通と考えられている。ひどくなると腎不全という状態になり、死に至るが、これは老犬の死亡原因のトップ・クラスに入るものである。なので、そこまで行く前になんとか食いとめたい!!で、やるのは食事管理である。高齢犬用の低タンパク、低リン、低ナトリウムというのは、全て腎臓を保護するためにあると考えても良いくらいである。
あとは尿の失禁もよくある悩みである。ただ、これは老化の場合もあるが、病気が隠れている場合も多いので、キッチリした検査が必要である。
・筋肉骨格系
高齢のワンちゃんが、普通に立っているだけなのにプルプルしてしまうのを見たことがあるでしょうか?あれは恐らく筋肉の量の低下が原因。力が入らないのである。骨も薄くなるし、あと、軟骨の量も減るので、関節炎になりやすくなる。そうすると…かなり痛いので、散歩も行かなくなる。筋肉も少ないので、余計歩きたくない。この場合、「年だから運動量も減るのネ…」と考えるのは、間違いとも言いきれないが、痛み止めを飲むだけで歩けるようになるなら、
関節炎とは…無縁だネ、君。
それは「関節炎」という立派な病気。老化とは区別して治療してあげましょうネ。

このようにダラダラと老後の変化を挙げてみたが、まだまだ他にたくさんある。たくさんだから、重要なものを中心に挙げただけ。ただ知っておいて頂きたいのは、これだけ、若い頃と比べると違いが出てくる、ということ。
いつ病気と見間違ってもおかしくないでしょ?だから、重要なのは、老化と病気をキチンと見分けること。
それをやるにはどうすれば良いか?日頃から、ワンちゃんを良く観察すること。適切な飼育を心掛けること。定期的に健康診断すること。

ワンちゃんは、人間の4倍のスピードで年をとる。人間が一年に一回健康診断するなら、ワンちゃんは3ヶ月に一回は検査すべきである。
花見で酒呑んだら、肝臓の値、悪そうだな…
(注:ワンちゃんにお酒はいけませんよ!!)
春夏秋冬でネ。それも毎回キッチリしたものでなくても良い。普段は身体検査くらいで、一年に一回位、血液検査、尿検査、便検査、レントゲン検査、超音波検査、心電図等で、ワンちゃんの正常値を知っておくべきである。

もちろん、高齢になったらこれらの健康診断の間隔は短くする必要がある。
例えば、血液検査でALT(GPTとも言う)という値がある。肝臓がどれだけ壊れているかの指標になるものである。これを毎年の健康診断でチェックしていて、少しずつ数値が上がっていた。
その事実を知っていれば、「あ〜、年だから肝臓が少しずつ壊れてきてるな」と現状を把握できる。それが、変な症状が出た時に、毎年のチェックなしに、いきなり測って高い結果が出たらどう判断するか?「年のせいなの?」「それともこの症状は肝臓がいきなり壊れたせい?」…迷いますよネ?こういうことを防ぐためにも、やはりワンちゃんの健康診断、つまりドッグ・ドック(人間ドックのパクリ)は定期的にはやったほうがよかですよ。
また、上記を読んでいただけばよく分かるように食事管理は非常に重要な要素である。しかし、高齢になって今ままで食べていたジャーキーや人間の食事を老齢食に換えようなんて事は至難の業である。なぜって、ワンちゃんは味のあるものに慣らされているからである。老齢食は犬にとっておいしくはないけど(ただ、その食事が当たり前なら犬にとってはおいしいものなんです)健康を考えれば、どうしても食べてもらいたいものなのです。

教訓:
一、ワンちゃんの老後の変化を熟知し、老化と病気を正確に見分ける眼を養うべし!!
ニ、定期的にワンちゃんの健康診断をし、現状でのワンちゃんの正常値をおさえておくべし!!
三、老齢食は長生きさせるためにも重要である。ドックフードは若いうちから与えるべし!!

次回は、ワンちゃんの痴呆、いわゆるボケについてです。


獣医師:斉藤大志



戻る