第十一章:ワンちゃんの明るい家族計画

11-4:産後の肥立ち

登場人物

清美(25):第三章の登場人物。
      専業主婦をしているが、暇な時間を使って、
      本物の「ヨーキー」の繁殖を勉強中。
      将来、ブリーダーになる気でいる。
涼子(24):第五章の登場人物。清美とは、ワンちゃんの散歩仲間である。
      某製薬会社の人気受付嬢をしているが、
      最近、メスのM・ダックス、レオちゃんを飼い始め、
      密かに子供をとろうとしている。

 前回、5匹の赤ちゃんを生んだと思われた麗緒ちゃんだが、実は、まだお腹の中に一人残っていて、最終的には、計6匹の赤ちゃんが生まれた。何か、とってつけたような設定ですが…嫌だな〜、ネタの前フリじゃないですよ。大事なのは、出産の前に、一度レントゲンを撮っておいて、お腹の中の子供の数を確かめておけってことです。
飼いたくなるよネ…


清美「でもさぁ〜、こんなに子供が多いと、何かと大変だネ。全部飼うの?それだったら全員名前考えなきゃネ。」
涼子「そうなのよ。一度、こんな感動的なシーンを見せられるとネ〜。全員、家の子にしたくなっちゃって。何か良い名前ない?」
清美「そーネー…こんなのはどう?たくや、ごろう、しんご、つよし、かつゆき、中居…全部SMAPってことで。」
涼子「なんで中居君だけ苗字なのよ!!しかも森君、もういないじゃないのよ!!しかも、家の子、皆、女の子なのよ…。」
清美「もう…じゃぁ、こんなのはどう?なつみ、かおり、まり、のぞみ、あい、スーザン久美子…全部モー娘。!!」
涼子「スーザン久美子って…おニャンこじゃないのよ!!誰も知らないわよ!!」

※すっげぇ、懐かしいな〜。昔ありましたネ…夕やけニャンニャンとか。これ以上書くと、マニアな人と思われるから、やめておこ(山本スーザン久美子を知っているだけでも、十分マニアックですが)。でも、若い人って、おニャンこクラブ、知らないんだろうな…。いや、別にそんなことどうでもいいのですが、今回は、出産後のお母さんと子供達のケアについて、やっていきましょう。名前をつけるってのも…重要ですけどネ。

 まず、赤ちゃんが生まれたらすぐに、キチンとお母さんが赤ちゃんの世話をするかどうかを確認しなければならない。中には、一番初めの発情で妊娠、出産してしまうような若いお母さんもいるが、そのような子は特に、子供が子供を生んだようなものなので、育児放棄をする場合がある。その場合、生みたての赤ちゃんの世話を、お母さんが全くしないこともあるので、人間がある程度、フォローしなくてはならない。出生後にやらなければならないことは、次の通りである。

1)気道の確保と呼吸の刺激
通常、胎子は胎膜に包まれて生まれてくるが、そのままだと窒息死してしまうので、お母さんが破ってあげることをしない場合は、人間がそれを取り除いてあげる必要がある。乾いたタオルで拭いてやると、そのうち簡単に破けますので。そのまま取ってあげて下さいな。この時、赤ちゃん(新生子)の口や鼻の中には、お水がたくさんつまっているので、それをスポイトやタオル、最悪、
羊水でおぼれさせないようにネ
マウス・トゥ・マウスで人間が吸い出してあげる。頭と首と背中を手で固定して、そっと胎子を振って、液体を除去する方法もあるが、脳に障害が加わる可能性もあるし、文章で説明しづらいから、や〜めた(どうしても知りたい方は、動物病院へGo!!スタッフに教えてもらいましょー)。で、気道の確保が済んだら、次は呼吸を促してやる必要がある。気道の確保だけで呼吸する子は楽でいいんだけど。呼吸の刺激は、背中を軽く押してあげる、背骨に沿って胸をさする、最悪、マウス・トゥ・マウスで鼻や口から優しく息を吹き込んで、人工呼吸を試みる。
この時、注意しなければならないのは、息を入れ過ぎて、新生子の肺を膨らませ過ぎないことである。胸がちょっと膨らむ位で十分である。心臓が止まっている場合は、外部からの心臓マッサージも組み合わせるが、かなりの危険を伴うので、早めに動物病院へ、である。

2)へその緒カット
11-3でやったから、カット!!

暑過ぎず、寒過ぎず…
3)保温
低体温は、新生子の主な死亡原因である。なので、生まれたての赤ちゃんは、すぐに25〜30℃の環境において、十分に保温する必要がある。ただ〜し!!これが必要なのは数日である。ずっと続けているとお母さんが参ってしまう。なので、徐々に20℃ちょっと位に下げてあげる。もし箱のようなもので管理しているのであれば、その半分だけ、ペット・ヒーターや床暖房で温めてあげるのがよい。全部温めてしまうと、暑い時、お母さんの逃げ場がなくなってしまうからである。その他、湯たんぽやカイロをタオルで包んだものを使用するのも良い。低温火傷には十分注意しましょうネ。

4)おっぱい吸わせる
新生子は生まれたての頃は、立ちあがることはできないが、四本の足をバタつかせて、這いずり回ることはできる。この活動が弱い子は、お乳に余りありつけないので、発育不良となってしまうので、要注意!!この這いずり回りを行っていると、いつのまにか乳房に到達し、お乳を吸うことができるのだが、これがうまくできない赤ちゃんもいる。その場合は、お乳を少し指にとって、赤ちゃんの鼻っ面や、頭の上につけてやる。こうすると、赤ちゃんは、お乳を求めて三千里、もとい、積極的に動き回るし、お母さんもなんとか自分のお乳の方に赤ちゃんを誘導するようになる。人工哺乳のやり方や離乳の時期に関しては…2-4、4-1、4-2に書いてあるので参考にして下さい。1、2、4のボックス買いで(競馬やる人にしか分からんな)。

5)身体検査
これも重要でござる。まず、体重が重要。正常な新生子は1日に体重の5〜10%の割合で成長するので、これに順じた成長が見られなければ、お乳が足りないか、健康状態の悪化を考える。また、キチンと呼吸しているかどうかも重要である。普通なら、1分間に15〜40回は呼吸するはずである。多過ぎても少な過ぎてもダメ。あとは、目や鼻から分泌する液体がないか、体温は正常か(生まれて1週間は32〜34℃と低めである。当然、お尻の穴の体温ネ)、奇形がないか等を調べる。ワンちゃんの奇形で有名なのは、
口の中のチェックを忘れずに!!
口蓋裂(こうがいれつ)である。これは、先天的に、上あごがうまくくっついていなくて、口と鼻が筒抜けになっている状態である。これがあると、お乳を吸っても食道に入らず、鼻にいったり、最悪、誤って肺に入ってしまい、肺炎を起こす。(で、亡くなってしまう)また、全く吸うことができないこともあり、その場合は、乳房にへばりついている割には、体重が上がってこない。

 で、ここまでが赤ちゃんのお話。これからが頑張ったで賞のお母さんのお話である。お母さんも出産後、生んだら、「はい、それで終わり」ではない。
授乳のために、たくさん栄養をつけなくてはならない。出産後、初めの数日間は、お母さんは胎盤を食べているので、下痢をしやすくなる。授乳中、食事の量は通常の3倍に増えるが、それを一気に増やしてしまうと、消化管に負担がかかり、これまた下痢をする。正解なのは、授乳期の動物用に調整されたフードを、体重に合わせて、しかも少量の食事を何回にも分けてあげることである。
 これだけ大量の食事を与えていても、お母さんが病気になることもある。有名なのは、低カルシウム血症である。子癇(しかん)、
カルシウムは重要です
産褥(さんじょく)テタニーとも呼ばれる。妊娠末期に赤ちゃんが急激に成長して、カルシウム分が不足する。また、お乳の中には赤ちゃんを成長させるためにカルシウムがたくさん入っているので、それを作ったお母さんにカルシウムが不足する。または、食事の中のカルシウム分が不足している(通常のフードを使用した場合)。こんな理由で、低カルシウム血症になる。症状としては、落ち着きなく、呼吸が荒くなり、よだれを垂らす。硬直したような歩き方をしたり、発熱、心拍数の増加(心臓バクバク!!ってやつ)が見られる。こんな症状が見えても放っておくと、足を突っ張るように伸ばし、死んでしまうこともある。治療はカルシウムの投与なので、そんな場合は早めに動物病院へ。ニボシとか無理矢理食わせてもダメよ。

 ほかにも、胎盤遺残(外陰部からの緑色の分泌物がず〜っと止まらない)、子宮炎、乳腺(乳房)炎なんかがある。特に乳腺炎なんかになると、要はおっぱいの炎症ですから、お乳を吸われる度に痛みが走るので、育児放棄にもつながってしまう。授乳中だと、なかなか化膿止めの抗生物質を投与するのも気がひけるが、終わり良ければ全て良し。動物病院の先生と相談して、お母さんにも赤ちゃんにも負担にならないよう、しっかり治療を続けてあげましょー!!


教訓:
一、せっかく生まれた新しい命。それをつくり出した命と合わせて、大切に育んでいくべし!!
ニ、可愛いー!!と赤ちゃんばかりに気を取られることなく、頑張ったお母さんの食事、いつもと違う症状にも気を配るべし!!


次回、いよいよ最終章。ワンちゃんの老後の章になります。重いテーマですぞ…。



獣医師:斉藤大志



戻る