第1章…ワンちゃんを飼い始める前に
1−4:犬の祖先を知っていますか?


ワンちゃんを飼うのに、えらく金がかかることに気付いた二人は、本気で貯金をすることにしたらしい。拓也は、割のいいバイトということで、まずは家庭教師の募集をしてみたが、得意科目が体育などと、アミューズメント系の科目を書いてしまったため、一件も応募が来ず(そりゃそう)、結局、夜間の交通整理をやっている。

拓也「今日仕事してたらさー、かわいいダックスが散歩しててさー。
   尻尾振ってたからー、御機嫌なのかと思って手出したらかまれたよ。
   さすが祖先がプレーリードッグなだけあるよ。」
恵子「それで確か猫の祖先はミーアキャットだよネー。私達って頭Eーっ!!」

※Eーじゃないでしょ、E-じゃ。二人とも不正解。プレーリードッグはリス科で、ミーアキャットはジャコウネコ科なの。ドッグとかキャットってだけで判断しないように。
現在、犬の祖先はオオカミ、という説が最も有力で、やはりワンちゃんの性格や行動にも、オオカミに似た特徴が数多く見られる。それらをちゃんと理解していないと、上手くしつけができなかったり、ワンちゃんの行動を理解できなかったりするので、ここで軽く触れときましょ。

◎走っているものを追いかける
オオカミの群れは、普通10頭前後で、リーダーが先頭に立ち、獲物を追跡し捕獲する。ワンちゃんにもその性格は色濃く残り、走るものを遊びとして追いかける。当然、殺そうとして追いかける訳ではないが、追いかけられる側が驚いて悲鳴をあげたりすると、ワンちゃんの方も次第に興奮して、本気でかみついてくる。ここで一つ豆知識。自分ちのワンちゃんが、もし人をかんでケガをさせた場合、狂犬病の予防注射をうってないと、法律的にかなりヤバいことになるので、ワンちゃんの登録(鑑札をもらうやつ。生涯に一回やればOK)と、年に一度の予防注射はちゃんとやっておきましょうネ。

◎遠ぼえ
縄張りを作って群れで生活している動物は、声や臭い、表情や動作で仲間同士の通信をしているが、遠い所にいる仲間との通信には声が一番。オオカミの遠ぼえは、少なくとも6km先でも聞こえ、「集まれーっ!!狩りに出かけるぞ!!」といった意味があるらしい。現在、ワンちゃんがあまり遠ぼえをしないのは、集合をかけたり群れの団結を強める必要がないから。人間は近くにいるし、狩りをしなくても器に入ったごはんが出てくるしネ。ただ、孤独な状況に置かれると、ワンちゃんも遠ぼえをする。それはやはり集合をかける意味もあるのだと思われる。あとは、救急車のサイレン(周波数が高く、犬の声の波長に似ている?)や飼い主の歌声に反応して、一生懸命に返事をしているワンちゃんもいるが、あれも、リーダーが群れの団結を呼びかけているのだ、と誤解した結果と思われる。

◎あいさつ
オオカミは順位制のしっかりした社会を作って生活している。なので、あいさつ一つとっても、上の者と下の者では行動が全く違ってくる。上の者は、やはり行動も堂々としている。あいさつする時も、下の者の上にのしかかったり、馬乗りになったりする。尻尾を見てみても、やはり堂々と高く上げ、肛門をあらわにしている。ワンちゃんの肛門の脇には肛門腺と呼ばれるくさい匂いを出す腺があり、その匂いで、性別や年齢、力の強さが、ある程度分かるらしい。初対面で力関係のはっきりしない犬同士が、まずお尻の匂いを嗅ぎ合うのもそのためである。そこを隠さないということは、かなりの自信である。不良のアンちゃんが、あごを突き出して、顔を上に向けて、チンタラ歩くのに似ていると言えば似ている。それとは逆に、力の弱い下の者は、上の者の足元にゴロッと転がり、仰向けになり、極端な場合にはおしっこをもらす。尻尾も後ろ足の間にまるめて入れてしまう。これはやはり肛門腺を隠すためと思われる。のび太くんがジャイアンの前で下を向いてしまうのと同じである。さすがののび太くんもおもらしはしないけどネ。

◎おしっこやウンチのしかた
オオカミに限らず、キツネなどの大抵のイヌ科動物は、ほかのものの接近を許さない「縄張り」と、獲物を捕るための広い「行動圏」を作り、定期的にそこをパトロールする。その場所を作るための目印が、何を隠そうおしっこである。肛門腺と同様おしっこも、おのおのの特徴をよく反映している。例えば大きい犬なら、おしっこが当たる場所も高いでしょ?それで身体の大きさを誇示することができる。そこで、小さいワンちゃんが考え出した姑息な(賢い?)手。後ろ足をあげておしっこをして、少しでも高い所におしっこを飛ばす。これが、ワンちゃんが足を上げておしっこをする理由と考えられている。だから、縄張り意識の弱い最近の犬や、子供の犬、あとメス犬などは、腰を落として、地面にする。散歩している時に、電柱などにかかっているほかの犬のおしっこの匂いを嗅いで、その後に自分のをかけるのは、言うなれば、外回りに出た営業マンが、お得意先で見つけたライバル会社の名刺をこっそり破り捨てて、自分の名刺を置いていくのと同じである(違うかもしんないけど)。また、ウンチをした後に、その近くをひっかくのも、匂いだけでなく視覚的な目印をつけるため、もしくは、足の裏に集中している汗腺から出る汗で匂い付けするためと考えられている。

◎偽妊娠
聞き慣れない言葉だが、オオカミとワンちゃんとを結び付ける、強力な特徴である。時々、ワンちゃんの生理(発情出血)が終わった後も、乳腺が発達し、お腹が張っている女の子のワンちゃんを見かけるが、それは何も、オーナーに隠れて愛を育み、妊娠してしまった訳ではない。いや、完全には否定できないけどネ。これは偽妊娠と呼ばれるもので、オオカミの群れでは普通に見られることである。群れの中で子供が生まれた場合、お母さんが子育てしきれない時のために、ほかの妊娠していないメスもお乳が出るように、妊娠していなくても子育てできるように、身体が変化する場合がある。これは正常な変化であり、ワンちゃんで見られた時も、自然に収まっていく。(よく想像妊娠とか言っちゃう先生もいるけど大きな間違いだって事は分かるよね)
…とまぁ、ざっと挙げただけでもこれだけある。あとは、拓也がかまれた原因だが、これもワンちゃんの行動と感情を理解していないと納得できない。一般的に、ワンちゃんが尻尾を振る時は御機嫌な時と思われているが、実はこれは大きな間違い。本当は、「逃げたいよー」と「ここにいたいよー」という二つの感情が入り混じった、複雑な行動なのである。飼い主の前で尻尾を振るのも、自分より大きい動物がいるから逃げたいが、おいしいものをくれたり、なでてくれるかもしれないから、ここにいたい、という気持ちの現れなのである。一般的に「ここにいたい」が強い、比較的友好的な時は、尻尾は水平に近く、大きくゆっくり振られる。逆に「逃げるか戦うかだな…」と思っている威嚇の時は、尻尾は垂直に跳ね上げられ、小刻みで激しく振られるはず。
ワンちゃんの行動に関する細かい話は、また、しつけの章でも出てくるが、本当に様々で面白い。その行動から、その時の感情を正確に理解してあげることができれば、ワンちゃんとのより良い関係が築けると思う。


教訓:
一、犬はオオカミ同様、順位制のしっかりした社会に生きていることを認識すべし!!(犬 は犬のぬいぐるみを来たオオカミである!)

二、ワンちゃんの行動は、感情の現れであるので、注意深く観察すべし!!(ボディランゲージ!)



次回からは、ワンちゃんの入手方法の章になります。お楽しみにーっ。

獣医師 斉藤 大志


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